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第27話【終わりに近い未来の始まり 一】

 別館に戻ってきたステラは、座り慣れた高価な椅子に腰掛ける。拘束具だけは外しているけれど、服は罪人が着る白い簡素な布のままだ。  ずっと整備されていない独房の地べたに座っていたからか、椅子に座るその感覚が酷く懐かしく思えた。  ――そして、正面に義賊が座っていることすらも……懐かしい。 「ヤッパリ、オレはツいてるぜ」  紅茶の注がれたティーカップに砂糖を遠慮なく落としながら、義賊はそう独り言ちる。  カップから唇を離し、ステラは小首を傾げた。 「どういうことでしょうか?」 「お? 種明かしに興味があるかい?」 「『種明かし』?」  スプーンでカップを乱暴にかき混ぜながら、義賊はニヤニヤと笑みを浮かべる。 「まず、一つ目の種明かし。広場にあの二人……使用人のオネーサンとセンセイが来るのは、賭けだった」 「え……っ?」  衝撃の事実に、ステラは手に持っていたティーカップを落としそうになり、慌てて掴み直す。  てっきり、最初から証人としてあの二人を呼んでいたと……ステラはそう思っていた。  だが、違ったらしい。 「アンタは気付いてなかっただろうが……あの二人が来たのは、オレがアンタを助けた後だ」 「それは、つまり……」  ――雪が降り始めた時。  そのタイミングで二人がやって来たと、義賊は言っているのだ。  未だ深紅に染まった瞳でステラを見つめたまま、義賊は不敵に笑う。 「一つ目の種明かしに付随する、二つ目の種明かし。オレの能力は雪の日に効力を発揮するんだ」 「雪の日、ですか……?」  義賊がステラの部屋を訪ねるのは、決まって雪の日だった。会う度いつも瞳が血の色に染まっていたので、薄々察してはいたが……やはり、雪の日にだけ真価を発揮する能力らしい。  となると、もう一つの疑問が浮上する。ステラはそれを、素直に訊ねた。 「義賊様はいったい……精霊様から、何を贈られたのですか?」  砂糖で散々甘くした紅茶を一気に呷り、義賊は答える。 「それも、一つ目の種明かしに付随する種明かし、三つ目だ」  ティーカップをソーサーの上に置いた義賊と、目が合った。 「――オレが精霊からもらった能力は【雪の日にだけ、ほんの少しいいことが起きる】ってモンさ」  その言葉でようやく、今まで義賊が言っていた言葉の意味を……少しだけ、ステラは理解する。 『今、アンタに会ってアンタと話してる。これ以上いいことは世界中どこを探したって見つからないね』 『あの二人が来たのは、オレがアンタを助けた後だ』  この部屋から帰る時、敷地内を巡回しているであろう従者に見つからず……尚且つ、この部屋に無事到達していたのは……そういうことだったのだ。

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