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第3話

 俺と桐の向かい側にいる3人のうち、右端に座る転入生をバレないようチラチラと見る。隣で桐が笑い過ぎでヒーヒーいっているのが腹立たしいが、転入生の前で殴る、なんてことはしたくなかった。 「え、っと......僕の顔に、なにかついてますか?」  ひそり、と尋ねられたそれにバレていたのか、と一瞬体がこわばる。 「......いや、悪い。見かけねぇなって」  緊張で意味のわからない言葉を喋る。見かけない顔だから思わず見てしまった、別に気にしてない、っていう風に言いたかったんだ。あとから考えるほど言い訳じみていて恥ずかしいが。 「あ、えっと、今日来たばかりで......1年の相楽紗夜って言います」  相楽紗夜。さがらさや。サヤ。  頭の中で名前を反芻しながらよく似合ってる名前だと思った。 「うちのがごめんねぇ。オレ、2年の桐生翼。こいつは藤宮桔梗ね」  固まっている俺に気づいてか、笑いながらもフォローを入れてくる桐。今だけはナイスだ。 「藤宮先輩......」  じ、と上目気味に見つめてくる視線。その破壊力に耐えられず思わず席を立った。 「桐、行くぞ」 「うわっ、ちょ、ごめんねー!」  ザワザワしている食堂の中、後ろで慰めるような声が聞こえた気がしたが、それどころではなかった。

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