9 / 19

第9話

「せ、んぱい......」 「......悪い、怖かったよな」  涙の膜が張っていた目元を親指で拭ってやる。すると、急に俺の胸元にすがり付いてきて一瞬固まってしまった。 「ありがと、ございますっ......こわ、かった」 「巻き込んで、悪い......」  あいつらは、俺に対する鬱憤を吐出していた。俺のせいで相楽が襲われたのは一目瞭然だ。  なんとか体を動かして、ぐずぐずと泣いている相楽の頭を撫でる。  もう少し俺が警戒して、ちゃんと迎えに行っていればこんなことにはならなかったんだ。  悔しさに歯噛みしていると、まだ涙声のまま相楽が弱々しく呟いた。 「せんぱい......すき、です」  ......!? 「っあ、そ、その......すみません、つい......」  突然のことに反応しきれず、思考も動きもぎちり、と固まっていた俺に気づいたのか、目元を赤くした相楽が俺の体を押し返しつつ恥ずかしがるように俯く。 「い、や......」 「......付き合って、くれません、か?」  うるりと涙目のまま上目にみられ、無意識的に乱れていた相楽の茶金の髪を整えるように梳いてやる。  青く澄んだ目はゆらゆらと少し不安げに揺れていた。  ごくり、と密かに唾を飲んでからゆっくりと顔を近づける。相楽は何をするのか察したのか、目を瞑った。 「っ、せんぱい」 「俺も、好きだ」  ふに、と少しだけ触れたその感触に顔が熱くなりかけるのを感じて顔を逸らす。  目で見るよりも相楽の唇は柔らかかった。  昼休みの時間も残りわずかだったので、教室まで相楽を送ってから屋上に戻り、桐に報告した。 「へぇ、で、付き合ったのぉ?」 「......ああ」  おめでとぉ、なんて気の抜けた声で言われて少し腹が立つが、それよりも照れくささが勝った。 「フジはさぁ、相楽クンのこと抱きたい、って思ってるんだっけぇ?」 「ん? そうだが......」  よく分からない質問をしてきた桐に首を傾ける。すると、俺を見てからハハハと空笑いしてから遠い目で頑張れ、と言われた。  一体なんのことだ。 「はぁ......相楽クンも相楽クンだけど、フジもフジだよねぇ......」

ともだちにシェアしよう!