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第12話

「ねぇ、先輩。僕の名前、呼んでみてください」 「っ、さがら」 「紗夜、です」  ゆっくりと近づく相楽の様子はなんだかいつもと違う。いつもは綺麗に青く澄んでいる目が、どこかギラギラとしているような。 「せんぱい」  ついに膝の上に乗られ、顔の距離がほぼゼロになる。  この距離で直視するのはもちろん俺には難題で。思わず顔を逸らそうとするも、俺の頭は相楽が後頭部に手を添えて固定されているため動かせない。 「先輩、僕がずっと見るとすぐ照れますよね」  顔逸らしちゃって可愛いです、とにんまり囁く相楽はもう俺の知ってる相楽ではなかった。が、これはこれで可愛いと思うあたり桐の言うように俺の頭はおかしいのかもしれない。 「ほら、先輩。さや、です」 「......さ、や」 「はい。もう1回お願いします」 「さや、」  顔が熱くなるのを自覚しながらも、逃げられないのでなんとか口を動かすと『よく出来ました』と褒めるように触れるだけのキスをされた。  付き合ってから、2度目のキスだ。 「先輩、本当可愛い」 「っ、可愛くねぇよ」  俺の顔は目の前に迫る顔とは違いもっと厳つい顔をしている。そんな俺が照れてもキモイだけだろ、と思いながらなんとかこの状況から抜けようとするも、抜け出せない。さ、やは見かけによらず力が強いらしい。  離れろ、と言っても嫌です、と笑顔で一刀両断されてしまった。 「先輩、僕も下の名前で呼んでもいいですか?」 「......好きにしろ」 「桔梗先輩」 「っ、」 「桔梗」  じ、とギラつく青い目で呼ばれ、ついたじろいでしまう。なんでだ、俺はこんなにもウブだったか。それよりさやはなんでこんなにも手馴れているんだ。 「ああ、可愛いなぁ」  可愛くねぇ、と反論するより先に噛みつかれるようにキスをされ、言葉にならないまま目を瞑る。何度か食まれたかと思うと、少しして舌が潜り込んできた。  キスとかセックスとかは今まで適当にやってきたけれど、俺が緊張しているのかさやが上手いのか。思うように主導権が奪えず、キスが終わった時にはこっちが息を切らしていた。 「......据え膳食わぬはなんとやら、ですよね。先輩」  先程よりギラついた、雄の目で俺を見るさやに今、ようやく本能的に察した。 「さや、が、うえ......?」 「桔梗の身体、ちょうだい」  俺の声を聞いて無邪気な子供のように言い切るさや。求めるものが俺の身体以外ならすぐに頷くものを、躊躇する。  もしかしてはじめからこのつもりだったのか。抱きたい、なんて思っていたのにまさか抱かれる側だなんて。  俺が返事するよりも先に、さやはするすると慣れた手つきで俺のシャツをはだけさせていく。 「お、おい、待て、」 「ダメ、ですか?」  慌ててさやの手を抑えるも、俺はさやのお強請りするような目に弱い。多分きっと、さやもそれをわかってやっている。  一瞬言い淀んだものの、ついには諦めて、好きにしろ、と許可を出してしまった。

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