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ぜんぶ、初めて
一応、助けてくれた恩人だし? たとえやってることは変わらなくても、それでもだ。少なくとも、俺は健吾さんに体は痛めつけられてねえし。
だから、まあいいか。しょうがねえなって。
ふうってまた床に体が落ちた瞬間、ぬぷりと一気に太いもので貫かれていた。
「ひぁっ……っ」
じっくり慣らされたけど、そこはそんな硬いものが常駐しちゃダメな場所で。滑らかだけど凶悪な棒がぐいぐいと中に押し入ってくる。
ここまで俺を引っ張ってきたみたいに、遠慮も何もない。ただ、自分の思うようにするという意志の感じられる挿入に、俺の背は反り返り、呼吸が止まりそうになった。
ようやく息を吸ってはふはふと荒い息を吐いていると、ぐるりと腰を回して一度馴染ませるようにして、グラインドが開始される。ずるりとぎりぎりまで腰を引いたかと思うと一気に押し込まれ、そのたびに串刺しにされるというリアルな感覚に恐怖を覚え、自然と涙が零れた。
「っや、もうちょっとゆっくり、」
息が弾んで、言葉が飛んで、うまく喋れない。頭の中もゆるゆるで、何を言いたいのかも思い浮かばない。
ただただ、異物感。今までに経験のない圧倒的な物量が体の中に出たり入ったりして、それにつられて跳ねまくる体が痛い。
男同士で、気持ち好くなんてなれるんだろうか。世間の同性カップルは一体どうしてるんだろう。確かに竿を擦られるのは良かったしイっちゃったけど、それだったら一緒に擦り合うだけじゃダメなんだろうか。
いろんな思いが頭の中を駆け巡って、その間に口からは意味のない声だけが零れていく。
腹の中が気持ち悪い。肛門と股関節がいてえ。そんなんばっかりだ。キスで誤魔化されても、そこだけにしか刺激がない瞬間にまざまざと思い知る。
「いくぞ」
突然耳元で囁かれて、エロい声に腰がずしんと重くなる。
ぐいとますます足を折り曲げられて、斜め上から叩きつけるように腰を使われて、苦しくて堪らない。そんな中で、伸びてきた健吾さんの手が、俺の竿を強く握った。久しぶりの直接的な刺激が、腰の動きに合わせて与えられて。
呆気なく俺が放った瞬間、自分でも判るくらいに中がきゅうっと締まった。それに絞られるように、中でどくんと健吾さんが弾けるのが判った。
絶頂の後に来る倦怠感に体を任せたまま、少し上の方で悩ましげに息を吐く健吾さんを見つめる。気付いて、くすりと笑んだまま、唇が降ってくる。
それを受け止めながら、意識が遠退いていった。
体が重くて目が覚めた。カーテンは相変わらず開きっぱなしで、体は柔らかな場所にいる。壁際のベッドに移動させられたらしい。体が重いのは、半分押し潰されるようにして、抱き枕よろしく抱え込まれているせいだった。
頭の後ろで寝息がしていて、腕を外そうとしても逆に力を込められただけだった。
しばらくもがいて、これはダメだと諦める。
待ち合わせの時間なんてとっくに過ぎてるだろう。二人は心配して、きっとメールとか着信とかいっぱい入ってるに違いない。
巾着に入れっぱなしの携帯電話も気になったし、無断外泊される羽目になる親のことも気になった。
遅くなるって言っといたし、夜中にこっそり帰宅することもあるから、心配してないといいけど。耳を澄ませていたけど、今は全然バイブの音も聞こえなくて、なんだか切なくなってくる。
もしかしたら、いないんならいっかーって、二人で何処かで遊んでるのかも。どこかってどこだよって自分に突っ込み入れたら余計に虚しくなってきた。
あーあ、莉央どころか、女じゃなくて男とキスしちゃったよ。おまけにキスどころかバックバージンまで奪われるし、ちっとも気持ち好くなんてねえし。不毛な夜だったよ。
うらうらと物思いに沈んでるうちにまた意識が飛んじゃってたみたいで、次に目を開けたらすっかり明るくなってたんだった。
カチャカチャとボタンを連打する音と電子音がBGM。少し丸まっていた背が伸びて、ポーズボタンを押してから、健吾さんがテレビ画面から俺へと顔を向ける。
「おはよ。腹減ったろ、食えよ」
顎でしゃくった先には正方形の座卓の上にサンドイッチのパックと清涼飲料水のペットボトル。なんかもう室温になってるっぽいんですが、いつから置いてあるんですかね……。
心の中で文句を言いながら、ベッドから足を出す。まだ体中痛いし特に腰とか下半身とかあらぬ箇所とかズキズキするんだけど懸命に忘れようと頑張ってベッドに腰掛けて。
そこから立ち上がろうとして、かくんと腰が砕けた。
「え?」
呆然としていると、にじり寄ってきた健吾さんが脇に手を差し込んでテーブルの傍に座り直させてくれた。
「あー、忘れてた。そういや初めてならそうなるっけ」
そんなこと言いながら頭掻かれても、被害者の俺はどうすれば。
「そのうち治るから。若いんだし」
そう笑ってから、そういやいくつ? と訊かれた。
「高三……来月誕生日」
「あー、十七か……やべ。いやもう十八に近いからセーフってことで。って、こんなとこまであいつと一緒なのかよ」
反射で答えたら、健吾さんはちょっと困った顔になって一人でぶつぶつ言っている。
未成年相手にえっちしたら捕まるんだっけ。どっちにしても、俺は警察に訴えるつもりなんてないし、男なんだから、別にこれくらいどうってことない。昨夜も思ったけど、あいつらじゃなくて健吾さんだったから。
相手が健吾さんだから、多分こんな風に落ち着いていられるんだと思う。体はいうこと利かなくても。
「あの、健吾さんは?」
「ん?」
「年、いくつなの」
「ああ、今年二十五だな」
あっさりと教えてくれて、ふうんと頷きながら、ペットボトルを手にとって、蓋を――開かない。いつもならあっさり開くはずのそれの周りを、虚しく指が滑って空回りする。
それに気付いた健吾さんが、チッと舌打ちしてからボトルをひったくるようにして取り、蓋を開けてから俺の前に差し出した。
受け取ろうとしたけど、健吾さんは手を離さない。俺の手が上から添えられたまま、ペットボトルを口元まで運び、こじ開けるようにして口に含まされる。
傾いたボトルからとくとくと流れ込む液体。慌てて飲んだけれど、もういらないと思うのにボトルを退けてもらえなくて、ついに飲みきれなかった液体が口の端から溢れて鎖骨の辺りまで流れていった。
ようやく離れていったボトルから手を離し、首元を撫でる。健吾さんが着せてくれたらしきTシャツは大きくて襟刳りも開いてて、だから服は濡れずに済んだようだった。
「酷いよ、健吾さん」
恨めしげに言ってからまた健吾さんを見ようとしたら、いつの間にか四つん這いになっていた彼が距離を詰めて、ぺろりと鎖骨のくぼみを舐められた。
「や……ぁっ」
甘い痺れ。思わず掴んだのは健吾さんの頭で、力の入らない指で髪をまさぐりながら、唇と舌が首筋を伝っていく刺激に体全体が震えた。
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