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ちっともよくねぇよ

 そうこうしている間に男が戻ってきて、痛みを堪えながら見ている前で、整髪料のジェルを掬い取っている。 「やだ……そんなの、体に悪い」 「元々出すとこなんだから問題ねえだろ」  苦情はスルーされて、また背中に乗られて抵抗できなくなる。重い。痛い。そっちに意識を取られている間に、香料やらなにやら入った得体の知れない成分が塗られて、滑りの良くなった後孔へと指が差し込まれて中にも塗り込められていく。気のせいかもしれないけど、中がちりちり痛くなってきて、俺は必死でもがいた。 「いたっ、痛いよ……助けてぇっ」 「嘘付け。あいつのちんこ喰ってたいやらしい孔なんだろ。これっぽっちで痛くなるかよ」 「違うーっ」  直腸は吸収するのも早いから座薬入れるわけで、そういう意味で痛いって言ってるのに全然解ってくれない。こいつ頭悪すぎ。医療用のゼリーまで用意してくれてた健吾さんのことを思い出して、そのひとときだけでも、ちゃんと気遣いされていたのが幸せだったって改めて思った。  入ることに気を良くしたのか、次々と指が増やされて、とにかく広げようと襞を伸ばされていく。ひりひりは止まないし、久しぶりだからそっちも痛いし、抵抗する体力もなくなって俺は静かに涙を流した。 「お、諦めたか。気持ち良くなってきたんだろ」  背中で声がするけど、そんなはずねえだろって言い返す気力もない。重いから早く退いてくれたらいいのにって願いながら耐えていると、ようやく満足いくところまで解れたのか、男が腰を上げた。俺にとってはただ気持ち悪いだけの時間だった。  うつ伏せのまま腰を引き上げられたかと思えば、一気に貫かれる。あまりの性急さに悲鳴も出なくて、酸素を求めてただ口を開けていた。 「あー……中、あっつー。気持ちいいもんだな、後ろだってのに。あ、後ろだから締め付けきついのか」  もしかしたらこいつ童貞なんじゃね、と心の中で突っ込みつつ、唯一体に刷り込まれているものと全く違うモノを受け入れて、それでも俺の体はどうにかして快感を得ようとしているようだった。  腰の動きに合わせて、中が蠢く。奥へ奥へと突っ込んでくるのをかわしながら、あの感じるポイントを刺激して欲しいと腰がくねる。それを男は勘違いしたようで、ますます鼻息荒くして腰を振り立てる。 「はっ、嫌がる振りしたって、男を咥えたいんだろ、なあ? 今日から俺が相手してやるからな。良かったなあ、おい」  今日からってなんだよ。もうここには来ねえよ。言葉にしないで、首だけ捻って背後の男を睨み付けてやろうとしたのに、無理な体勢の上にその前に暴行されていて体が思うように動かない。  がんがんと突き上げられて、ついに男が中で大きくなるのが判った。生ぬるいモノが叩きつけられて、それを塗り込むようにじわじわと動かされる。 「まさか、生……」 「孕む心配ねえんだから、当たり前だろ」  得意げに言われて、俺はエイズやなんかの性感染症をぱあっと思い出した。健吾さんはずっとゴム付けてくれてたし、心配したこともなかった。向こうだってそれを危惧して付けていたんだろうし、やっぱりこいつ馬鹿すぎるって怖くてがたがたと震えが来る。 「ヤダ……病気移ったらどーすんだよ」 「んなもん持ってるわけねえだろ? それともお前が持ってんのか」  やっぱり性行為初めての童貞か。そのことに少しだけ安堵しながらも、ふるふると首を振って否定する。 「ならいいだろ。お前だって生の方が良かったろ」  それは好きな人との場合であって、お前なんかこれっぽっちも好くねえよ。勝手に中出ししやがって、気持ち悪い以外の何物でもねえ。  そう、啖呵を切ってやれたら少しは気が済んだかもしれない。その後の暴力が予想できて、言葉は喉の奥に引っ込んだ。 「さあ、今度は前からな」  一度抜いて、体を反される。萎えたままの俺のものを見て意外そうにしてたけど、触る気はなさそうだった。本当に自分のことしか考えてない。  足を開かれて、またずぷんと一息に入ってくる。無理に折り曲げられた足が、先に痛め付けられた胸部を圧迫して、まともに呼吸できない。それなのにがんがん突かれて、ついに酸素不足で意識を手放してしまった。  シャッター音が連続して、それを合図に意識が浮上する。 「飛んでたなあ。前なしでイくなんて、とんだ淫乱だな」  顔に付けられた粘ついたモノに呆然として、それをぐいぐい拭っているところも携帯で撮影されている。イったわけねえだろ、ただ単に苦しくて意識失ってただけなんだよ。そんなことも判んない経験不足に好きにされた自分が情けなくて、でもしっかり撮影されている画像がどう使われるのか、結局健吾さんがしなかった行為が予想できて、もう人生終わったと確信する。 「ハメてるところまでばっちり撮ったからな。これ流されたくなかったら、俺が呼んだら来い」  ジーンズのポケットに入れていた携帯を勝手に出してイジられるのを諦観して眺めていた。  風呂も貸さないで、服着てさっさと出てけって蹴られて、いろんな痛みも言葉も我慢して取りあえず下衣に足を突っ込んで玄関を出る。  羽織ったままだったコートにあいつの出したモノが付いてて、ここに捨てて帰りたいくらい気持ち悪い。でもそんなことしたら風邪引くし親を心配させるし、また滲み始めた涙を押しとどめて、俺はまだ明るい道を、チャリに縋り付くようにして歩いて帰った。

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