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護衛の旅の始まり

「お初にお目にかかります、ロイット・アール・シルヴァと申します。本日からシエラ様の護衛をさせていただきます。以後、お見知りおきを」  シルヴァは少々やりすぎなくらいに丁寧な口調で自己紹介をした。  早く見合い相手に会いたいというシエラの希望で、既に三人は移動用のゴンドラに乗っている。オールを握っているのはシエラのために特別に雇った船頭だ。 「アギラ・ルーマ・シエラです。どうぞ、よろしく。シルヴァ、あなたもオメガなんですか?」  深く被った深緑色のフードの隙間から白い肌と翡翠のような瞳が覗く。髪はシルヴァと同じ漆黒で肩で切りそろえられている。 「いえ、俺はアルファです。ちょっと特殊でして……」 「僕はガーランド、宜しくね、シエラ様」 「おい、敬語を使えよ」  船頭の前で立ち上がり、まるで道化師のように大袈裟にお辞儀をするガーランドをシルヴァが小突いた。 「よろしく、ガーランド。ずっと聞きたかったのだけれど、どうしてあなたのトランクはそんなに大きいのですか?」  シエラはガーランドの言葉遣いより、小柄な人なら入れそうな大きさのトランクの中身が気になったようだ。 「あなたを食べるためです」  ガーランドがふざけたことを口から発した瞬間、見張りが放ったのか一瞬で一本の矢が彼の横を掠め運河に消えていった。 「というのは、冗談。旅のあれこれを入れたらこうなってしまっただけですよ」  軽く笑いながらガーランドが何もなかったように告げる。シルヴァも動じず、シエラは矢に気付いてさえいなかった。 「あとで見せてくれますか?」 「それは難しいです、僕の秘密が詰まっているので」 「あなたには秘密が多そうですね」 「それだけが取り柄なんですよ」  楽しそうに会話をする二人の横でシルヴァは、また頭を抱えていた。秘密が多いのが取り柄とはなんだ、と。 「シエラ様、これから道が広くなりますので馬車に乗り換えます。小さな町をいくつか経由することになりそうですが、進むスピードはシエラ様に合わせますので、休息を取りたい場合などは遠慮なく仰ってください」  乗り物に乗っているだけといえども、疲労はすぐに出てくるだろうとシルヴァは思ったのだった。 「ありがとう。でも、出来るだけ早く着けたら嬉しいです」  シエラはこの縁談をとても楽しみにしているようだ。「分かりました」と答えながらクルーォルの王子は、そんなに美形で魅力のある人間なのだろうか、とシルヴァは思う。 「きっと、相手は素敵な方なんだろうね。ああ、これは不躾だったかな」 「いえ、その通りです。私が成人する前から決まっていた縁談で……」  長々と語られるシエラと相手のウォーカーという王子の話が右から左に抜け始めた頃、ゴンドラは馬車との合流地点に到着した。 「こちらから、馬車に乗ります」  レンガ畳に上がり、待っていた馬車の御者に話をしてシルヴァはシエラをキャリッジの中に案内した。そして、自分も彼の前に腰を下ろす。次いで、トランクをキャリッジの上に乗せたガーランドがシルヴァの横に座った。 「君の隣に座れるなんて嬉しいな」 「変なこと言うな」  自然な流れで肩を抱かれそうになり、シルヴァは眉をひそめながらガーランドの手をぴしゃりと叩き落した。「つれないな」とボヤきながらもガーランドは嬉しそうな表情を浮かべている。その顔を見て、シルヴァが一層眉間に皺を寄せる。そんな二人をシエラはキラキラとした表情で見つめていた。

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