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怒りの朝、素直じゃない君

「あんたなぁ……」  明朝、シルヴァはベッドの上からガーランドを睨み付けた。いつ眠ったのか、何故かシルヴァが目覚めた時、ガーランドが隣で彼を抱き締めるように眠っていたのだ。 「すまなかった、不可抗力だったんだ。君もアルファなら分かるだろう? 一度、ラットになったら止められない」  真っ裸のままベッドから下ろされたガーランドは、謝罪するには生易しいフカフカな絨毯の上で床に着くほど頭を深く下げた。 「はぁ……」  話をするだけ無駄か、とシルヴァは深く溜息を吐き、痛む腰を手でさすりながらバスルームに向かおうとした。警戒して羽織ったバスローブの紐をきつく結ぶ。 「手を貸そうか?」  透かさず、ガーランドが勢いよく立ち上がる。 「っ近寄んな! そこから動くんじゃねぇ!」  身体をびくっと震わせ、犬でも叱るようにシルヴァが怒鳴りつけるが、ガーランドの動きが止まることはなかった。 「動くなって……」  シルヴァがボヤいても、ガーランドはゆっくりと彼に近付いた。じりじりと壁まで追い詰め、逞しい両腕で逃げ場を無くす。 「君は素直じゃないけど、昨日の君はとても可愛かった」 「やめろ、言うな」  優男の顔面を思いっ切り殴ってやろうとシルヴァは拳を強く握った。だが、自分の中に刻まれた昨夜の記憶が動きを鈍らせる。  あの情事は初めてのような感覚がしなかった。今までに一度ならず、何度もガーランドに抱かれているような……。 「……っ」  互いの言葉や熱、吐息までもを思い出して自分が動けなくなる。 「君を好きな気持ちに偽りはない」  あまりにも真っ直ぐな視線を向けられ、どきりとした。優しさの中の強い光がシルヴァの心を揺らす。だが、簡単に流されたりはしない。 「なに勘違いしてんだ。俺は、あんたを絶対に許さないからな?」  距離を……、距離を置かなければ。この訳の分からない感情に乗っ取られてしまわないように。この男に流されないように。 「俺に近寄んな」  冷静になってシルヴァはガーランドを押し退けた。 「やっぱり君は素直じゃないね」  バスルームの扉が閉まる刹那、そんな呟きが聞こえた気がした。

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