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思わぬ道草は不慮の事故から

 不慮の事故が自分の身に起こったとはいえ、この場所にずっと留まっているわけにはいかない。今後の道順を確認するためにシルヴァは宿の前にやってきた馬車の御者に話をしに行った。そして、衝撃的な話を聞く。  部屋に戻ったシルヴァは、それをシエラとガーランドに報告した。 「次の町までの間で土砂崩れがあって道を塞がれてしまったと御者から聞きました」 「クルーォルに行けないということですか?」  雨が上がった今の状態からはとても考えられない、というようにシエラは窓の外の快晴を見つめた。薬のお陰で落ち着いたのか、彼はもう何ともないように見えた。 「それは、まだ分かりません。土砂を撤去するのにどれくらい時間が掛かるか……」 「一日では無理だってことだけは分かるね」  会話に参加しながらガーランドはトランクを開け、何やらぶつぶつと言っていた。まるでトランクに話し掛けているようだ。 「そう……ですか……」  シエラは落ち込んだ様子で金の刺繍が入った赤い椅子に腰を下ろした。 「別の方法も考えてみますが、少し時間をください」 「……分かりました」  貴族というからには我儘を言われるかと思ったが、シエラは控えめな性格で無理を言うことはなかった。 「良かったね」  ガーランドの言葉を聞いて、シルヴァは直ぐに「ちょっとは休めるんじゃないか?」という意味であることを読み取った。 「良かない。まさか、あんたがやったんじゃないよな?」 「そんな力は持ってないよ。昨日はたくさん雨が降っていたから地盤が緩んでしまったんだと思うよ?」 「怪しいな、あんたならやり兼ねない」  訝し気な表情でシルヴァがガーランドを見つめる。 「過剰評価ってやつじゃないかな?」 「褒めてなんかないぞ?」 「あの……」  二人の会話に割り入るようにシエラが小さく挙手をした。 「はい?」 「あの、ずっと言えていなかったんですけど、昨夜のこと……、本当にごめんなさい。私の所為で……」  言葉の先を言いづらそうにしているところを見るとシエラは昨夜のことを全て聞いていたらしい。 「いえ、そのことは全て忘れましょう。忘れた方がいいのです」  真顔でシルヴァが告げる。まるで聖職者のような言い方だ。 「でも……、でも、お二人って、お付き合いされてるんですか?」 「はい?」 「昨夜の、その……、アレは恋人同士のソレでしたよ?」  キラキラとした表情でシエラがシルヴァとガーランドを交互に見る。その瞳はガールズトークに花を咲かせる少女たちと何ら変わりはない。 「あのですねぇ……」 「貴族の方々は、こういう話が好きなんだよ。退屈してる証拠かも、外に連れ出した方がいいんじゃないの?」  少々苛立ちを感じているシルヴァにガーランドが耳打ちをした。 「……シエラ様、外に買い物でも行きますか?」  退屈だからと二人の関係についての話ばかりされては困る。そう思ったシルヴァは出そうになった溜息を止めてシエラに尋ねた。 「良いのですか!?」  ぱあっと花が開くようにシエラは瞳を輝かせた。 「はい。ただし、絶対に俺とガーランドから離れないでくださいね?」 「もちろんです!」  早く行きましょう、と翡翠の瞳が部屋の中を行ったり来たりする。その姿を見てほっとしつつ、シルヴァは移動用の小さな鞄を肩から掛け、部屋の扉を開けた。  先にシエラが扉を通り、次にガーランドが通る。 「礼は言わないからな?」 「別にいいよ」 「褒めてもいない」 「はいはい」  通り過ぎ様にそんな会話をした。シルヴァと視線が合わなくとも、やれやれというガーランドの表情は少々嬉しそうだった。

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