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愛を祝福される恋人たち

「ふざけるな!」  シルヴァは靴に隠していた針金で手枷を外し、周りの騎士たちに殴り掛かった。 「ふざけるなよ!」  すべて思い出してしまった。  ガーランドと出会った瞬間もガーランドと触れ合ってきた日々もガーランドの別れの言葉も……、ショックが記憶を呼び戻した。 「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!」  ある者には他の騎士から奪った剣を刺し、ある者には近くにあった花瓶を投げつけ、ある者には首に足を巻き付け絞め殺した。 「素晴らしい。お前は一体、何者なんだ?」  ウォーカーは嬉しそうにゆっくりと手を叩いた。シルヴァがその場に居た騎士たちを抹殺した後だった。 「……く」  動き回った所為か、薬が早く回ったらしく、シルヴァは床に膝を着いた。 「気に入った。私のそばに置いてやろう」  身体に力が入らず、動けないシルヴァにウォーカーの手が伸びる。その時だった。 「っ、なんだ?」  一枚のカードが彼の手に当たった。床を滑って行くそれをよく見てみると、トランプのジョーカーだった。  静かな足音が聞こえてくる。 「僕のシルヴァに触らないでくれ」  ガーランドがいつの間にか城に侵入し、ここまで来ていたのだ。 「いっ!」  カードが何枚もウォーカーの手元を攻撃する。徐々に投げる角度を上げ、顔面にも直撃した。 「何をする! 無礼だぞ?」  必死にカードを手で払いのけながらウォーカーが後ろに下がる。 「知らないね。僕に常識は通用しない」  ゆっくりとガーランドが距離を詰めていく。普段の飄々とした雰囲気から一変して、今のガーランドの眼差しはとても冷たかった。 「やめろ、こっちに来るな!」 「眠れ」  怯えた眼差で尻餅を着くウォーカーに近付き、ガーランドは催眠術を掛けた。 「たかがトランプだよ。一国の王子がだらしないな」  ぼそりと吐き捨て、続ける。 「僕が一度指を鳴らしたら、君は正直に何でも国民に話したくなる。それと僕らは客人、丁重に扱うこと。ああ、でも、これから一時間、君は石像だ」  パチンと軽く弾ける音がした。 「シルヴァ、帰ろう」  ガーランドが駆け寄ってシルヴァを抱き上げた。そして、城を出ようと歩き出す。 「……全部……、思い出したぞ……?」  閉じそうになる瞼を必死に持ち上げながらシルヴァがガーランドの顔を見上げた。 「文句は後でいくらでも受け付けるから。それより、ほら見て。君のために中庭の赤いバラを全て刈ってもらったんだ。何本あるかな? 何万本かな?」  ガーランドに言われ、シルヴァは視線を前方に向けた。  催眠術で操られているのだろう。使用人たちが一列に並び、二人が通る道にバラの花弁を撒いていく。 「……綺麗だ……」  大きな窓から光が差し込み、その情景はまるで何かの祝い事のようだった。愛を祝福される恋人たちが見える。  自然と出来上がった赤いカーペットの上を歩いていく。城を出ても数十メートルか、数百メートルか、裏の森の入り口まで祝福は続いた。  森の入り口には一台の馬車が待っており、ガーランドは御者に「南の国、イリューシェンまで」と言って指を一度鳴らした。  それからシルヴァを馬車の席に座らせ、自分も横に座る。眠ってしまいそうなシルヴァに膝を貸してやると、馬車が走り出した。  これで大丈夫、あとは着くのを待つだけ。そう思った時だった。 「……くっ」  突然、ガーランドが苦しそうに右手で胸を抑えた。 「……あんた、毒が……」  安心して眠ってしまいそうになっていたシルヴァが震える手でガーランドの頬に触れる。 「……ごめん、ね……、自分に……催眠術を、掛けてたん、だけど……、もう、限界……みたいだ……」  弱っていく呼吸でなんとか言葉を紡ぎ、ガーランドはシルヴァの手を握った。 「ガー……ランド……」 「……ここに……、いるよ……、君の……」  そばに――。

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