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南の国のイリューシェン
太陽の匂いと甘い花の香りに包まれてシルヴァは目を覚ました。真っ白な寝具に包まれて眠っていたようだ。
「おはよう」
横から伸びた手が優しくシルヴァの髪を撫でる。至近距離にガーランドの魅惑の瞳があった。
「夢か?」
ゆっくりと身体を起こすとガーランドの身体越しに大きなプールが見えた。天井から床まである大きな窓は開かれ、快晴の風が部屋に入ってきている。
「現実だよ」
ガーランドはそう言うが、窓の外に広がる風景はショッテンパードでは見たことのないものだった。背の高いあの木もカラフルなあの花も見たことがない。
「何が起こった?」
「ここはショッテンパードでもクルーォルでもない、南の国イリュ―シェンだ」
「イリュ―シェン?」
地図上でクルーォルの下辺りにそんな国があるのをどこかで見たことがあった。では、これが南国の景色なのかと思う。
「あんたの家か?」
身に着けている寝間着も部屋の中もなんとなく南国な感じがする。
「そうだ。それで……、ずっと言えなかったんだけど、僕はイリューシェンのスパイなんだ」
「は?」
まだぼんやりとする頭で部屋を眺めていたシルヴァだったがガーランドの言葉で完全に目が覚めた。ガーランドが続ける。
「運河で誘拐の事実が分かった時点で連絡用のハトを本部に飛ばした。大きな情報を手に入れたから、仲間が動いてくれて僕らは助かったんだ。君のおかげで僕は命を救われたんだよ」
ガーランドは身体を起こして部屋の隅に置かれたトランクを指差した。
トランクに話し掛けていた奇行の理由は分かったが、そんなことなど今はどうでもいい。
「俺を利用したのか?」
――俺をポラリスに入れた本当の目的は情報のためだったのか?
「あんた、俺を利用したんだな?」
「違う」
真剣な表情が華奢な肩を掴む。
「ふざけんなよ!」
シルヴァはガーランドの胸を拳で叩いた。
「あんたなんか嫌いだ!」
もう一度、叩いた。
「嫌いだ……」
嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ。
自分が馬鹿みたいだ。
あんたに無意識に惹かれてたなんて。
「大っ嫌いだ……!」
ムカついて、何度もガーランドの胸を叩いた。何度も何度もビクともしない胸を叩いた。
「……っ」
もう一度叩こうとして腕を上げた時、ギュッと強く抱き締められた。
「君を愛してた。今でも君を愛してる。利用なんてしてない。気付いたら君を守ることばかり考えてた」
本当は分かっている。
あんたが俺を守ろうとしたことも。
自分を犠牲にしたことも。
でも、それが許せなかった。
「だったら、なんでもっと早くに真実を言わなかったんだ? あんたが言えば再会した時に思い出せたかもしれないだろう?」
いくら催眠術が効かなくなったとはいえ、何かの拍子で思い出したかもしれない。
「思い出されたら怖くて、名前も呼べなかったんだ。きっと君は怒る」
「当たり前だ! あんなこと俺は頼んでなかっただろう?」
守ってほしいなどと誰が頼んだのか。
怒りに任せてガーランドから離れようとするが、逞しい腕がそれを許さない。
「シルヴァ……」
「あんたは馬鹿だ」
思い出してほしくないなら、どうして抱いた? どうして感情に呼び掛けた? あんたは本当に馬鹿だ。
「俺だって離れたくなかったのに……」
ぼそりと呟いて目を伏せる。
「ああ、シルヴァ……」
珍しく素直な発言にガーランドは悩ましく溜息を吐いた。そして、堪らなくなりゆっくりと唇を奪う。
「んっ、ん……」
「シルヴァ……、シルヴァ……」
キスの合間に繰り返し名前を呼ばれる。
「っ……駄目だ」
このままでは流されてしまうとシルヴァは唇を離した。
「駄目じゃない」
ガーランドが優しくシルヴァの頬を両手で包む。
「子供出来ないんだぞ?」
教会でのことを思い出したのだ。あの時のガーランドはとても楽しそうで嬉しそうだった。誰が見ても子供が好きなのが分かる。
男のアルファとアルファでは子供が出来ないことをガーランドも知っているはずだ。
「子供は好きだけど、君には敵わない。僕には君しかいないんだ。君じゃないと駄目なんだ」
――ずっと、そう思っていた。
「君を好きな気持ちに偽りはない」
いつもより低い声で耳に吹き込んで、その唇で耳朶を噛む。
「あ……っ」
「僕を呼んで」
シルヴァの首筋に唇を這わせながら囁くと直ぐに彼は真っ赤になった。
「ガー、ランド……」
耳まで赤く染めながらガーランドの名を呼ぶ。
「君を愛してる」
シルヴァの身体をベッドに押し倒し、寝間着の前を開きながら、そこにキスを落としていく。
「ん、ン…っ」
既にシルヴァの口からは甘い声が漏れ、青い瞳も潤んでいた。
「はっ、あ…っ」
胸元の飾りを口に含むと腰が揺れる。もう片方を爪の先で引っ掻けば、シルヴァの反応しかけたモノがピクリと動いた。
「ここ好き?」
「……んっ」
言葉では何も言わないがシルヴァは小さく頷いた。
「ここも好き?」
「あぅ…っ、ん、んんっ」
腹よりも、もっと下、服を全て取り払って性器をぱくりと口に含むと、シルヴァは声を我慢しながら大きく何度も首を縦に振った。
いつもは素直ではないシルヴァも行為の時だけは素直になる。ガーランドはそれが堪らなく嬉しかった。
「も……や、だ…っ」
シルヴァの昂ぶりを裏から先端まで丁寧に舐め上げてやると今度は彼が首を横に振った。
「イキそう?」
「ん」
上目遣いで見上げると潤んだ青い瞳と視線が合った。
「どうしたい?」
熱を溜め込み小刻みに震える性器の近くで問い掛ける。
「が、らんど…」
「どうしてほしい?」
本当はどうしてほしいかなんて分かっているけれど、シルヴァの表情が可愛くてどうしても意地悪をしてしまう。
「イキ……た……っぁ」
シルヴァが言い終える前にガーランドは彼の屹立を奥深くまで咥え込み、強く吸った。
「ひ…っ、あ、あぁあ…ッ!」
目の前が真っ白になり、シルヴァは白濁をガーランドの口の中に吐き出した。
「は…っ、はぁ…っ、ガーラン、ド…っ」
乱れる息で、潤む碧眼で、名前を呼んでガーランドを急かす。達したばかりだというのにシルヴァは自分からうつ伏せになって腰を高く上げた。
「どうしたの? 積極的だね……、寂しかった?」
「ん……っ」
ガーランドは唇を手で拭って、華奢な背中に口付けた。
「でも、ちゃんと慣らさないと」
シルヴァの耳元で熱っぽい声で囁く。
「ほら、力抜いて」
「あ……っ」
濡れた指が中に入ってきて、思わず上擦った声が出た。まだ一本しか入れていないというのに腰が厭らしく揺れている。
「悪い子だ」
ぺちんと尻を叩くと、シルヴァはきゅうっと指を締め付けた。そのまま、ガーランドが弱い部分を抉る。
「だめっ、そこは……ぁ、イク…から」
「もう? 今日はやけに感度が良いね」
わざと焦らしている。
悩まし気な顔が可愛い。
普段絶対に見せない顔だ。
蕩けてる。
「これで指三本」
中に入っている指を三本バラバラに動かす。
「ん、は、やく……」
ついに我慢が出来なくなってシルヴァは勝手に指を抜いて、ガーランドの張り詰めた昂ぶりに自分から腰を擦り付けた。
ガーランドの中で何かが弾けた音がした。
「そんなこと言われると我慢出来なくなるよ……!」
呼吸を乱しながらガーランドは服を全て脱ぎ去った。
「ッ、君が煽ったんだからね?」
自分には余裕があると思っていた。
せっかく優しくしようと思ってたのに。
もう無理だ。
「あ、ああ、んっ!」
熱い塊がずくりとシルヴァの体内に侵入してきた。間髪入れずに背後からシルヴァを抱え、ガーランドが激しく突き上げる。
「ひ…っ、は…っ、はぁ…っ、あぅ…っ」
与えられる快楽には切れ目がなく、ずっと激しい波となって押し寄せる。あまりの激しさにシーツを掴んだシルヴァの手に筋が浮かんでいた。
「噛、んでッ…」
自分の限界を感じ取ってシルヴァはガーランドに懇願した。
「ぁ、噛んで……っ」
噛んで、刻んで。
たとえ跡が消えてしまうとしても。
本来の意味を為さないとしても。
何度でも噛んで跡を付けて。
「シルヴァ……っ」
中に熱を吐き出すのと同時にガーランドはシルヴァの項を噛んだ。ドクドクと熱が溢れ出す。
「あ…っ、や、ぁあああ…!!」
強く項を噛まれ、それが引き金になったようにシルヴァは身体を震わせながら果てた――。
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