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第3話
――電車が次の駅に着いたら、一目散に飛び降りよう。
憧れの人に意図せず痴漢するという、人生でワースト1か2くらいのとんでもない状況から解放されるには、ここから逃げ出すしかない。
二度と7時22分の電車には乗らないつもりだ。
憧れの彼の顔を見ることが出来なくなるのは、本当に悲しくてツラいことだが、平気な顔をしてこの電車に乗り続けるなんて由樹には出来そうもなかった。
「ミカンがみっかんない」
「イカを食べてみたいか?」
隣りの小学生がダジャレしりとりを始めた。
指先から意識を逸らせるために、聞き耳を立てる。
「カ、カ、カ……うーん、思いつかない、なんだろう?」
呪文のように「カ」を繰り返しながら、小学生が悩んでいる。
由樹も、心の中で一緒に考え始めた。
「カ」がつく言葉……。
「!?」
突然、手首を掴まれた。
ものすごい握力で振り払うことが出来ず、操り人形のように言いなりになる。
その手は、ぐいぐいと由樹の手を自分の股間に押し付け、まるで由樹の手を使って自慰をするかのように、卑猥な動作で撫で擦り始めた。
――なんで、なんで???
パニックになり、由樹の頭は真っ白になった。
「カのつくダジャレ思いつかない!!」
「降参かよっ?」
「待って、待って! 考えてるからっ! あ、お兄ちゃんも一緒に考えて?」
自分と齢が近いと思ったのか、由樹を見上げて助けを求めてきた。
憧れの人に強制的にシコシコさせられてて、それどころじゃないんです……なんて言えず、
「かっ、カイロ……カイロはあったかいろ?」
とベタなダジャレを思わず答えていた。
「お兄ちゃん、ナイスっ!」
「ええ、ずるい!! 次はロ??? ロから始まるのは……うーん。お兄ちゃん、僕のも一緒に考えてよっ!!」
一度答えたら運のつき。
再び、答えを求められる。
けれども、由樹はそれどころではなかった。
そんなことを言っている間に、右手の下のものは、形を変え、硬度を増しはじめたからだ。
心なしか、真後ろから「はぁはぁ」と荒い息遣いが聞こえるような気がする。
――ひぇー、俺の愛撫に反応してるっ?? どうするつもりなの??
由樹は、憧れの人の股間の変化に、真っ赤になって狼狽えた。
「ねぇ? お兄ちゃん、聞いてるの?? ロからはじまるダジャレを教えてよっ!」
由樹の動揺も知らず、小学生が苛立ちの混じった声で催促をしてくる。
「ろ? ろ、ろっ、廊下を走ろうか?」
声がひっくり返ったが、小学生は全く気にすることなく、
「お兄ちゃん、オヤジギャグの天才!」
「ゾロリよりスゲー」
と尊敬の眼差しをむけて、さらに「カ」を求めてくる。
不埒な行為をしている後ろめたさからか、「君たち、全く考えてないじゃん! 自分で考えてよっ!」と突き放すこともできず、由樹は「カ」のダジャレを必死に考えた。
そうこうしているうちに、ジリリとファスナーを下げる音がして、布地の内部に手を引き込まれた。
目的がわからず戸惑っていると、ぬるりとした温かいものに指先が触れた。
――ええっ! これって、ペニス?? この人、何を考えてるのっ?? こんな公共の場でっ!!
「カは? 早く考えてよっ!」
「か?? か、カイロはあったかいろ……」
「それ、さっき、言ったヤツ! 他のヤツを考えてよっ!」
由樹の右手の上に自分の手を重ね合わせ、指先を蜜口に這わすように誘導された。
先走りらしき液が、ドクドクと溢れている。
それを周りに塗り込めるように拡げ、親指と中指で輪を作りゆっくりと扱く。
「……んっ」
自分の体に施されたわけではないのに、由樹の下半身にもドクドクと血液が集まり、形を変え始めた。
前がすっかり張りつめ、立っていられない。
「間もなく、駅に到着します。お忘れ物のないようにご注意ください」
駅の到着を知らせるアナウンスが流れた。
――助かった……
由樹はすっかり馴染んだ手の中のペニスをぎゅっと握りしめた。
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