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第4話

 春馬は、不届き者の手首をグッと握りしめた。  女のように細くて華奢な手首に驚くが、すぐに気を取り直す。  触りたいのなら、思う存分、触らせてやる。  ――ただし、俺のやり方で  その手をグイグイと、自分のペニスに擦り付けた。  手首はビクリと飛び跳ね、逃げだすようにもがいた。  ――絶対に、逃がしはしない。  力を込めて引き寄せて固定し、動きを封じ込める。  その手を使って、自分でやるように、掌全体を使って円を描くような動きで股間を撫でまわす。  自慰の道具として、使ってやる。  ――気持ちがいい  足元から、ざわざわとしたものが這い上がってきた。  それは、自慰とは似て非なるものだった。  他人の手を介しているためか、思い通りになりそうでならない動きが、予想を裏切りもどかしくも気持ちがいい。  それに加え、見知らぬ他人にこんなことをやらせているという背徳感とも征服感ともつかない複雑な感情がスパイスとなり、得も言えぬ興奮を引き起こす。  春馬は、初めて感じるフワフワとした絶頂感に戸惑いを感じた。  春馬の前には、人の良さそうな笑みを浮かべている老人と頭に白いものが混じり始めた50代の会社員。  そして、そのすぐ前には、色白でフワフワの巻き毛の可愛らしい、まさに白皙の美少年といった風情の男子高校生が立っていた。  この3人は、毎朝この車両に乗り込むお馴染みのメンバーだ。  その周辺を、さっきの駅で乗り込んできた小学生がワラワラと取り囲んでいる。    じっと観察していると、少年の様子がいつもと違うことに気付いた。  白い肌が桃色に上気し、恥ずかしそうに唇を噛みしめながら、モジモジと俯いている。  思い返せば、この少年とは、目が合うことが多い。  そうだったのかと、春馬は確信した。  きっと自分への恋心が、少年をこのような痴漢行為へと至らしめたのだろう。  少年のいじらしく、健気な恋心がズンと胸に響く。  そこまで、思いつめるなんて、可愛すぎる。  痴漢行為を憎み、懲らしめてやろうと気色ばんだ気持ちが急速にしぼんでいた。  そのかわりに、少年に対する愛しさが芽生えてくる。  なんとか、気持ちに応えてあげたい。  ――もっと、俺を味わってくれ。  春馬は、自分のペニスの様子をダイレクトに感じることが出来るようにと、指を絡めるように少年の手に重ねあわせて、さっきまでの撫で擦るような動きから揉み扱くような動きに変化させた。  さざ波のような快楽が背筋をせり上がってくる。 「お兄ちゃんも一緒に考えて?」  ギャアギャアと騒いでいた小学生が、少年に「カ」のつくダジャレを考えるようにお願いしてきた。  どうやら、ダジャレしりとりをしていて、思いつかなかったため、隣にいた少年に声を掛けたようだ。  ――はあ? 自分で考えろっ! 俺たちの邪魔をするな、ボケっ!  だから、子供は大嫌いなんだと、春馬は眉をしかめた。  自分なら、ギロリと睨み付けて、無視をする。  当然、相手をしないか、する余裕もないと思っていた少年は、 「カイロはあったかいろ?」  と、なかなかナイスな回答をした。  ――お、お前……余裕だな。よし、余計なことを考えられないくらい、もっと、メロメロにさせてやる!  春馬は、猛々しく固く張りつめたペニスを掌に押し付けると、腰を揺らしてピストン運動を開始した。  布越しではあるが、少年の手の感触がこの上なく気持ちがいい。  ――ダメだ……こっちが先にいってしまいそう……  春馬は、つま先に力を入れて、射精感を必死にやり過ごした。 「ねぇ? お兄ちゃん、聞いてるの?? ロからはじまるダジャレを教えてよっ!」  小学生は、生意気にも苛立ちの混じった声で催促をしてきた。  少年は、困ったように俯くと小さな声で呟いた。 「……廊下を走ろうか?」  ――な、何っ? まだ、お前には回答する余裕があるのかっ??  自分は限界に近くて、射精しそうなのを死ぬ思いでこらえているというのに、少年はまたもやナイスな回答をした。  春馬は、ギリギリと歯ぎしりをした。  ――もっと、もっと、すごいことをして、回答なんて出来なくしてやるっ!  もはや、少年と自分との戦いだった。  数々の浮名を流し、かなりの経験を積んできた自分が、まっさらな何も知らない少年に翻弄されている。  余裕をなくしているのが少年ではなく、自分だけなんて、認める訳にはいかなかった。  ――こうなったら、最後の手段だっ!  春馬は、ジリリとファスナーを下げ、自身のペニスを取り出すと、少年の手に直接握らせた。  さっきまでの刺激で散々昂りきったペニスは、肉付きの薄い骨ばった手にぎゅっと、握りしめられただけで、蜜口から先走りの液を溢れ出させた。  手は、春馬の意思を正確に汲み取り、自ら進んで動き始めた。  小指から人差し指へと順に締め付け、強弱をつけて握りしめながら、同時に根元から先端へと先走りの液を塗り込めるようにゆっくりと扱きあげる。  まるで、乳牛のミルクを絞り出すようなその動きに、とうとう春馬の理性は霧散した。 「……んっ」  春馬の嬌声が洩れた。  電車の中だとか、しかも、ギュウギュウ詰めの車内で、すぐそばに人がいるなんてことは、きれいさっぱり吹き飛んでいた。  春馬の意識には、少年と自分だけしかなかった。  少年が操る快楽の流れにのり、自分だけではたどり着かない場所まで昇りつめる。  ――う、うっ、はじける…っ… 「間もなく、駅に到着します。お忘れ物のないようにご注意ください」  駅の到着を知らせるアナウンスに我に返った。  理性が、高まりきった射精感を瞬時に消し去る。  春馬は、慌てて衣服を整えた。  しかし、このまま何もなかったことにはしたくなくて、手首は掴んだままにする。 「2年生のみんな? 次の駅で、降ります。準備をして下さい」  教師らしき人が、小学生に声を掛けた。  駅に到着すると、ガヤガヤと小学生の団体は、降りていった。  少年に絡んでいた小学生は、最後に振り向くと、 「お兄ちゃん、バイバーイっ!」  と、笑顔で挨拶をした後、春馬と少年の間に視線を向けながら不思議そうにつぶやいた。 「お兄ちゃんたち、どうして、『3人』で手をつないでいるの?」

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