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第3話 消えた記憶

常に誰かが傍にいた気がする。 朦朧とする僕に水を飲ませたり、お粥らしき物を口に入れたり。 とても苦い水みたいな物も飲まされた。たぶんあれは、白湯に薬を溶かした物だと思う。 渋い顔をした僕に、その誰かが「我慢しろ」と言って、笑う声が聞こえていた。 ーー早く熱を治して、体力も回復して、あなたの顔を見なくちゃ。 どれくらい僕は眠っていたのだろうか。 そろそろ眠るのにも飽きてきた頃に、ようやく意識が鮮明になって、目を開けた。 ゆっくりと瞬きを繰り返して目の焦点を合わせる。 高い木の天井に眩ゆい電気。久しぶりに開いた目にそれは瞼し過ぎて、視線を横にずらせた。 次に目に入ってきたのは、天井と同じ木の壁の広い部屋だ。僕はベッドに寝かされていて、僕の頭側に窓が、ベッドの横に小さな棚があった。その棚の上に、ペットボトルの水が置いてある。 喉が渇いていた僕は、ペットボトルを取ろうと手を伸ばした。少しだけ上半身を起こした瞬間、頭にズキンと痛みが走り、ペットボトルを手で弾いて落としてしまった。 再びベッドに横たわり、そっと頭に手を当てる。 ーーいたっ…、え?何これ…? 僕の頭には、包帯らしき物がグルグルと巻かれていた。 ーー怪我…してる? 自分は一体どうなってるのだろう…、と焦り始めたその時、ベッドから離れた反対側にあるドアが開く音がした。 顔だけを動かしてそちらを見る。白シャツに黒のカーディガン、黒いズボン姿の背の高い男の人が、僕の傍に歩いて来た。 僕は、大きく目を見開いて、彼を見る。 少し切れ長の二重に筋の通った鼻。端正な顔立ちに思わず見惚れてしまう。 僕と目が合うと、彼は破顔してベッドの端に腰掛けた。 「やっと目が覚めたな。ふっ、思った通りの綺麗な目をしてる…。気分はどうだ?大丈夫か?」 「…だ、じょぶ…。…だ、れ…?」 小さく頷いて声を出す。掠れた声しか出せないことに驚いたけど、僕は長く眠っていたみたいだし、仕方ないのかもしれない。 彼は、僕の額にかかる髪を横に流して目を細めた。 「辛ければ、無理に話さなくてもいい。俺は、香月 祥吾(かづき しょうご)という。おまえの名前は?」 彼の…かづきさんの問いかけに、首を傾げる。 ーー僕の、名前…。僕は……誰? 「…わから、ない。僕…は何?ど、うして…ここに…?」 「えっ?名前わからないのか?…マジか…」 かづきさんが、とても困った顔で僕を見る。 僕も、同じ様に困った顔をして、かづきさんを見つめ返した。

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