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第4話 雪と祥吾

「雪、それ重いから俺が持って行くよ。休憩したいからコーヒー淹れてくれる?」 「これくらい持てるよ。祥吾さんこそ、手が大事なんだから、重い物持っちゃダメだよ」 「俺は頑丈に出来てるからいいんだ。雪の綺麗な手に傷でもついたら大変だからな。コーヒー、濃いめで頼むよ」 「もう…わかった。気をつけてよ」 頬を膨らませて睨む僕に笑って、祥吾さんが薪の束を抱えてリビングに向かう。 僕は、渋々キッチンに入って、コーヒーメーカーにフィルターをセットした。 僕は、この家に来る以前の記憶がない。 祥吾さんから聞いた話によると、僕は、この家の近くで、半分雪に埋もれて倒れていたらしい。そこそこ高い斜面から滑り落ちたらしく、その時に頭を打った衝撃で記憶が無くなったみたいだ。 小説を書いてる祥吾さんが住むこの家は、冬の間は雪に閉ざされた山の中にある。祥吾さんを訪ねて来る人しか来ない人里離れたこの場所に、なぜ僕がいたのかはわからない。 僕は、白のセーターと黒のズボン、紺のダッフルコートに青いマフラーをして、少しばかりのお金が入った財布しか持っていなかったそうだ。だから、僕の身元を証明するものが何も無いため、どこの誰かも全くわからない。 祥吾さんは、頭を打った僕を心配して、医者をしている友達を呼んでくれた。 診てもらったところ、頭が少し切れていたけど、大した怪我はなかった。だけど熱が高く咳も出ていたから、風邪薬を処方してもらって飲ませてくれた。 僕は二日間、熱にうなされて寝込んでいたそうだ。「もっと長い間眠っていた気がする」と祥吾さんに言うと、 「二日でも長過ぎる。俺は早く雪が目覚めないかと、待ち遠しかったよ」 と僕の頬を撫でながら目を細めた。 ちなみに『雪』というのは、祥吾さんが僕につけてくれた名前。僕を真っ白な雪の中で見つけたからだそうだ。 僕は、結構この名前を気に入っている。

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