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第13話 3
ソファーに横たわって、テーブルの前の椅子に座る祥吾さんの背中を見る。肩幅のある大きな背中。その背中は、肩甲骨が浮き出て無駄な肉がなく、とても綺麗な事を、僕は知っている。
祥吾さんは、松田さんと少し話しては振り返り、心配気に僕の様子を窺う。そしてまた松田さんと話してはすぐに振り返る。そんな落ち着きのない祥吾さんの姿に笑って、そっと目を閉じた。
呼吸は落ち着いたけど、まだ心臓がドキドキとうるさい。自分の胸に手を当てて、先程のことを思い返した。
自分でも、なぜ急にパニックになったのかがわからない。僕の、忘れてしまっている記憶と関係があるのだろうか…。一瞬だけ、頭の中に浮かんだ言葉…。
あの言葉を思い出そうとすると、また喉が締めつけられて苦しくなる。僕は慌てて深呼吸を繰り返して、祥吾さんの声を思い浮かべる。
『雪、好きだよ』と、毎日紡いでくれる言葉。
その魔法の言葉で、心臓のドキドキが治まり、胸の中がほわりと温かくなってきた。強張っていた身体と気持ちが緩んだ僕は、祥吾さんと松田さんの声を子守唄がわりに聞きながら、静かに寝息を立て始めた。
身体に感じる浮遊感で、目を覚ました。
手の甲で目元を擦りながら、「んぅ…」と小さく声を漏らす。すぐに、僕の額に柔らかいモノが押し当てられた。
「悪い…、起こしたか?」
優しい目をした祥吾さんの顔が、すぐ目の前にあった。
ぼんやりと祥吾さんを見つめているうちに、僕の身体が降ろされる。ここは寝室のベッドの上で、祥吾さんも僕の隣に寝転んだ。
「…僕、寝ちゃってた?」
「ん。よく寝てた。晴樹が雪の可愛い寝顔をニヤけた顔で見ていたから、殴っておいた」
僕を胸に抱き寄せて、祥吾さんが、ふ…と笑う。
その松田さんはどうしたのだろう、と思って、僕は首をコテリと傾けた。
「暴力はダメだよ?松田さんはどうしたの?」
「本気は出してないさ。でも晴樹は頑丈だから、俺の手の方が痛かったよ。あいつは飲み過ぎて、早々に客間で眠りこけてる。朝まで爆睡だろう」
「え…、大丈夫なの?祥吾さんは?飲み過ぎてない?」
「大丈夫だよ。雪に心配かけさせるのは、嫌だからな。少し控えた。ところで、どうだ体調は?もう、何ともないか?」
「うん、平気…。祥吾さんに、こうやってくっ付いてるから、すごく安心して穏やかでいられる…」
「そうか…良かった。俺も、雪とこうしてると、すごく幸せな気分で落ち着くよ」
そう言って、僕の唇に口付けた。
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