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第18話 8

僕は頭から毛布を被り、膝を抱えて俯いた。 幸せがいっぱい詰まった筈の暖かい胸が、チクリと針で突かれたように痛い。 ーー嫌だ。この幸せを失いたくない。だから、どうかお願い。余計な事を思い出させないで。 「お願い…」と小さく呟きながら、震えそうになる身体を抱きしめた。 「雪、どうした?やっぱり辛いのか?」 突然、祥吾さんの声がして、慌てて顔を上げる。 フライ返しを手に持ったまま、祥吾さんが心配気にこちらを見ていた。 「…だ、大丈夫っ。二度寝しかけてただけ…っ。僕、顔洗って来るねっ」 「そうなのか?気をつけて歩けよ?」 「うん」 僕は毛布をソファーに置いて、フラフラとした足取りで、ゆっくりと歩いてリビングを出た。 リビングを出た途端にブルリと身体を震わせて、両手で腕をさする。 家の中全体が、暖炉からの熱で暖かくなっているとはいえ、かなり暖かいリビングに比べて廊下は冷える。 洗面所に入って、顔を洗い歯を磨き、髪も整えてから、再びリビングに戻った。 リビングでは松田さんが起きて来て、テーブルの前の椅子に座って欠伸をしていた。 「あ、雪くん、おはよう。顔洗って来たの?寒かっただろ?ほら、冷えないようにしないとね」 「あ、ありがとう…」 松田さんの向かい側に座った僕の肩に、松田さんが、ソファーから毛布を取って来て掛けてくれた。 松田さんは、僕の背中をトントンと軽く叩くと、顔を覗き込んでニコリと笑う。直後に祥吾さんに呼ばれて、僕の頭を撫でてキッチンに入って行った。 顔を洗ってスッキリしたと思ったけど、まだ胸に何かがつっかえたようで気持ち悪い。 でも、暗い顔をしていると祥吾さんに心配をかけさせてしまう…と、両手で頰を挟んで上に持ち上げた。 そのままキッチンを見ると、祥吾さんと松田さんが、ヒソヒソと内緒話をしている。 僕は何を話しているのか気になって、静かに席を立って二人に近付いた。

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