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第20話 10

祥吾さんと初めて身体を繋げた翌日に、松田さんに聞かれたかも…、と一悶着あったけど、あの日以降、僕と祥吾さんは、頻繁に抱き合った。 抱き合う度に愛が深まり、この先、祥吾さん無しでは生きられないと思ってしまう程、僕の中で祥吾さんの存在が大きくなっていった。 雪に閉ざされた寒い冬の間、暖を求めるように僕と祥吾さんは、常にくっ付いて過ごした。 いつでも祥吾さんに触れたい時に触れることが出来て、僕の心は穏やかで幸せに満ちていた。 ただ、抱き合う時、愛を囁かれる時、祥吾さんの腕の中で目覚める時に、フッと奇妙な感覚が訪れる。 まだハッキリとは思い出せないけど、ここに来る以前の僕は、きっと祥吾さんのような相手がいたのだ。 だからと言って、思い出したいとは思わない。僕には今、祥吾さんがいる。祥吾さんを愛している。それに、奇妙な感覚を感じた後には、頭が痛く胸が苦しくなってしまう。それは、僕が思い出したくない、思い出してはいけないと思っているからだ。だから、僕の身体が拒否をするんだ。 記憶が蘇る不安を抱えながら、祥吾さんのアシスタントや身の回りの世話をして寒い冬を過ごした。 そして季節が変わり、雪が溶けて、庭に可愛らしい花が咲き始めた。 屋根に残った最後の雪が、暖かい陽射しに照らされて、ポタポタと雫を軒下に落とす。 朝の家事を終えて、窓からその様子を眺めていた僕を、祥吾さんが後ろから抱きしめた。 「雪、何見てるんだ?」 「屋根から水が落ちて来るのを見てた。やっと雪が溶けたね。春って気持ちがウキウキしない?」 「ん、そうだな。もう少しあったかくなって桜が咲き始めたら、一緒に見に行こうな」 「行きたいっ。どこか、お花見出来る所があるの?」 「ある。人の来ない、俺の秘密の場所。毎年一人で見に行ってすぐに帰ってたけど、今年は雪とゆっくり見たいな」 「じゃあ僕、お弁当作るねっ」 「へぇ、それは楽しみ。期待してるぞ」 「…あ、あんまり…大したもの、作れない…けど…」 しゅんと俯いた僕の頭に顎を乗せて、祥吾さんが、僕のお腹に回した腕に力を込める。 「いいんだよ。雪が作ったってことが、重要なんだ。俺も手伝うよ。ふっ、今からすっげー楽しみ。なっ?」 「…うん、ありがとう。僕も楽しみ」 顔を上に向けて、祥吾さんと目を合わせる。 祥吾さんは、僕の瞼と鼻にキスをして、「さて、そろそろ出掛けるか」と笑って、僕の頭を撫でた。

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