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第22話 12

パーキングから出て、右側に行く祥吾さんに手を振って、僕は左側に向かって歩き出した。 すれ違う人から顔を逸らすように俯いて、目的の店まで黙々と歩く。十分程歩くと、僕が来たかった店に着いた。 二階建てのビルの、お洒落な雑貨屋さん。祥吾さんの車に乗っている時に何回か前を通ったことがあって、ずっと気になっていたんだ。 ガラス張りのドアを押して開けると、カランと鈴が鳴る。 少しドキドキとしながら店内に足を踏み入れる。中は、いろんな物が所狭しと並べられていて、どこから見ようかと迷ってしまう程だ。 僕は、ゆっくりと店内を歩きながらキョロキョロと首を巡らせ、遠くに目的の物を見つけて少し早歩きで近付いた。 もうすぐ、祥吾さんの誕生日がある。僕は、いつも祥吾さんに色々としてもらってばかりで、何も返せていない。 僕がそう言うと、祥吾さんはきっと、「傍にいてくれるだけでいい」とか「俺の手伝いをしてくれている」とか言うに決まってるんだ。 なるべく、祥吾さんが集中して小説を書けるように、家事は僕がしている。だけど、祥吾さんが僕に買って与えてくれるように、形ある物を僕も祥吾さんに送りたい。 ずっとそんなことを考えていて、祥吾さんの小説を書くお手伝いをした時に貰ったお小遣いを貯めていたんだ。 この店を見つけてから、祥吾さんのパソコンを借りて調べて、僕でも買える大きな鞄があることがわかっていた。 祥吾さんは、鞄を持たない。今日も、財布とスマホはズボンのポケットに、パソコンはパソコンケースに入れて小脇に抱えていた。たぶんこの先自分では買わないだろうから、僕がプレゼントしたら使ってくれるかなぁ、と思ったんだ。 台に並べられた鞄を端から順番に見て行く。下の段に目を移すと、黒色で生地がしっかりとして、祥吾さんのイメージにぴったりの鞄を見つけた。 「あ…これ、いいかも…」 ポツリと呟いて、鞄を手に取る。少し大き目で、パソコンも余裕で入りそうだ。 値札を確認すると、少し高いけど、何とか僕でも買えそうだった。ついでに、店に入ってすぐの所で見つけたアロマオイルも手に取って、僕はウキウキとしながらレジに向かった。

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