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第25話 15

「雪っ!どうしたっ!」 安心する声とともに、フワリと僕の大好きな匂いに包まれて、僕は広くて暖かい祥吾さんの胸に、ペタリと頰をつけた。 祥吾さんは、僕の背中を優しく撫でて、「もう大丈夫だ。ほら、ゆっくり息を吸って…」と頭の上で囁く。 祥吾さんに触れられて、やっと普通に呼吸が出来るようになった僕は、そっと顔を上げた。祥吾さんが、一つ息を吐いて、僕の頰を大きな手で包んだ。 「…もう大丈夫か?遠くから雪の姿を見て、心臓が止まるかと思った…」 「…ん、大丈夫…。心配かけて、ごめんなさい…」 「いや、やっぱり俺が傍にいてやれば良かった。ごめんな…。ところで、雪の前に立ってた奴は何だ?あいつに何かされたのか?」 「え…?」 祥吾さんの言葉に周りに目を向けると、僕のことを「なつ」と呼んだ男の人は、いなくなっていた。 僕は、ホゥッと安堵の息を吐いて、もう一度、祥吾さんの胸に顔を寄せる。祥吾さんの匂いを吸い込みながら、小さく首を振った。 「ううん…、何もないよ。道を聞かれただけ…。説明しようとしたら、急に気分が悪くなったの…」 「そうなのか?暖かくなったとはいえ、まだ風が冷たいしな…。風邪かな?早く帰って休もう」 「もう大丈夫。たぶん、人が多いから酔ったんだと思う…。せっかく祥吾さんとのお出掛けなんだから、何か食べて帰りたい」 「…わかった。でも、また辛くなったらすぐに言うんだぞ?」 「うん。ありがと…」 「ん。じゃあ行くか。立てるか?」 祥吾さんに支えてもらって立ち上がり、ソロリと足を踏み出す。冷えた指先がまだ震えていたけど、祥吾さんに手を繋がれた途端に、震えが止まった。 祥吾さんは、パソコンを地面に置くと僕から大きな袋を取って肩に掛け、またパソコンを持ち上げて小脇に抱える。 暖かく大きな手に引かれながら、さっきの出来事が頭に浮かぶ。 ーーあの人、僕を知ってるの?僕の名前は、「なつ」って言うの?少し気にはなるけど、でも、もう僕の前に現れないで欲しい。僕には、祥吾さんと暮らす今の生活が全てなんだから。 身体の震えは止まったけれど、まだ心臓がドクドクと鳴っている。 僕は、祥吾さんの手を強く握り返すと、窺うように覗き込んできた祥吾さんの唇に、背伸びをしてキスをした。

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