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第26話 16

小鳥の可愛らしいさえずりに気づいて、僕は目を覚ました。枕元に置いていたスマホで時間を確認すると、アラームの鳴る十分前だ。僕の身体を包むいつもの温もりに前を見る。すぐ間近にある翔吾さんから、規則正しい寝息が聞こえてくる。 ーーふふ…まだ寝てる。良かった、先に起きれて。翔吾さん、びっくりしてくれるかなぁ。 僕は、じっくりと愛しい顔を眺めてから、音を立てないように時間をかけて布団から抜け出した。 つま先立ちで静かに歩き、ベッドの下から大きな袋を引っ張り出す。 数日前に、街のオシャレな雑貨屋さんで買った、翔吾さんへの誕生日プレゼント。今日は、翔吾さんの二十九歳の誕生日だ。 袋を横に置いて、ベッドに肘を付いて凛々しく端正な顔を見る。 閉じた瞼から伸びる睫毛が長い。鼻も高くて眉毛も綺麗に整えてある。少し開いた唇を見ていたら、どうしても触れたくなって、吸い寄せられるようにキスをした。 チュッチュと啄んでいると、いきなり後頭部を引き寄せられて、口内に舌が挿し込まれ、クチュクチュと僕の舌が絡め取られる。 「んっ、んぅ、ふぁ…、翔吾…さぁ…ん」 息が苦しくなった僕は、翔吾さんの胸を押して甘い声を上げる。 チュッと大きく音を立てて離れた翔吾さんが、「雪に襲われるなんて最高」と言って笑った。 「ち…違うよっ。襲ったんじゃなくて…翔吾さん見てたら、ついしたくなっ…て…」 「ふっ、嬉しいよ。でも、なんで俺の腕から抜け出てるんだ?」 僕の頰を撫でる祥吾さんにニコリと微笑んで、僕は大きな袋を持ち上げて見せた。 「ん?何だそれ?」 「はいっ。お誕生日おめでとう!」 「は?え?…俺?…ああ、そう言えば今日だったな…。ありがとう、雪。覚えていてくれたのか」 「当たり前だよ。大好きな人の事なんだからっ。ねぇ、見てくれる?」 「おう」 祥吾さんが笑って身体を起こして、袋の中身を取り出した。一瞬目を見開いてから、裏返したり持ち上げたり、ファスナーを開けて中を一つ一つ覗いたり。隅々まで確認をすると、とびきりの笑顔で僕を見た。 「メチャクチャいいな。使い易そうだしデザインもいい。雪、ありがとな。これから打ち合わせの時なんかは、これにパソコンを入れて行くよ」 「うん。祥吾さん、無造作に財布やスマホをポケットに突っ込むんだもん。パソコンも落とさないのかなぁ…て、ヒヤヒヤしてた。次から使ってね?」 「もちろん!でもさ、これ、雪が俺のアシスタントをして稼いだお金で買ったんだろ?俺は、おまえが自分の好きな物を買えばいいと思ってたのに…。こんなおっさんのプレゼントに使っちまって」 「ふふ…おっさんって…。自分の好きなことに使ったよ?だって、この鞄を見る度に、祥吾さん、僕のこと思い出してくれるでしょ?」 祥吾さんは、鞄を丁寧に袋の中に戻すと、ベッドから降りて僕を立たせ、強く抱きしめた。 「俺はいつだって雪のことしか考えてねーよ。なんか…さっきの言い方は嫌だ。雪がいなくなりそうで…」 「ふふ、おかしな祥吾さん。僕はどこにも行かないよ。ずっとここで、祥吾さんと一緒にいるよ」 「だよな?悪りぃ。変なこと言った。さあて、さっさと朝飯食って雪とイチャイチャするか。昼にはたぶん、晴樹が来るぜ」 「え?」と顔を上げた僕の唇に、祥吾さんが軽く触れる。 「あいつ、俺の誕生日に毎年突撃して来んの。今年は雪がいるから遠慮して欲しいけど、たぶん来るな…」 「じ、じゃあ、部屋の掃除しなきゃ!」 「しなくていい。雪、アイツが来るまで俺から離れたらダメ。朝からこんな可愛いことをしてくれた責任を取ってもらわないとな」 「…せ、責任?」 首を傾げた僕に笑って、翔吾さんが、軽々と僕を抱き上げた。下から見上げてくる祥吾さんの笑顔があまりにも眩しくて、僕はなぜか、泣きそうになってしまった。

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