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第30話 20

ジュ~と軽快な音といい匂いをさせて、松田さんが、ホットプレートの上に牛脂を乗せて溶かし牛肉を焼いていく。 僕も手伝おうと手を伸ばしかけたけど、その手を祥吾さんに掴まれて、膝の上に座らされた。 「あ、あの…祥吾さん?僕も手伝わなきゃ…」 「雪はここで俺と出来上がるのを待ってたらいい」 「でも、今日の主役は祥吾さんで、松田さんはお客様だし…」 困って眉を八の字にして振り向きながら見上げる僕の顔を、祥吾さんの温かい手が優しく包む。 優しく甘い目で僕を見つめながら、祥吾さんが笑って言った。 「雪は本当に優しいな…。晴樹はさ、一人暮らしが長くて料理が得意だし、任せておけばいいんだよ。なぁ、晴樹?」 「まあ料理は好きだしそこそこ出来るけども。おまえだって一人暮らしが長いじゃないか…」 「俺は、雪の為にしか作らねぇ」 「…うん知ってた。雪くん、今日は祥吾の誕生日だからいいんだ。俺に気がねしないで。雪くんは、祥吾の傍にいてあげて。それが一番のプレゼントだから」 「…すいません」 僕が軽く頭を下げて謝ると、松田さんはフワリと笑って、ホットプレートに調味料と食材を入れ始めた。 さすがにずっと祥吾さんの膝の上は恥ずかしいから、すき焼きが出来上がる前に膝から降りて、祥吾さんの隣に座る。 部屋に充満するいい匂いにお腹が小さく鳴った頃に、「出来たよ」と松田さんの声がして、僕は思わず笑顔になって手を合わせた。 すき焼きをお腹いっぱい食べて、松田さんに後片付けまで手伝ってもらって、暗くなりかけた頃に、松田さんは帰って行った。 松田さんを玄関で見送って、祥吾さんと手を繋いでリビングに戻る。 ソファーに座ろうとした僕を、祥吾さんが正面からしっかりと抱きしめた。 何も言わずに強い力で抱きしめられて、しばらくは僕も祥吾さんを抱き返して、祥吾さんの鼓動の音を聞いていたけど、あまりにも動かないから、不思議に思ってソロリと顔を上げた。 見上げた先で、祥吾さんの鳶色の瞳が僕を映していた。 途端に僕の胸が苦しくなって、また好きが積もる。 僕は今、すごく蕩けた顔をしてるのだろう。祥吾さんの瞳の中の、小さく映る僕の顔がとても幸せそうだ。 「…どうしたの?」 「雪…。俺さ、こんなに嬉しくて幸せな気持ちになった誕生日は初めてだよ…。雪がいるだけで、毎日の一つ一つが特別になるんだ。頼むから、ずっと傍にいてくれ。おまえのいない世界には、もう戻れない…」 「ふ…ふふ、なんか大袈裟だよ?でも、そんな風に思ってくれて嬉しいっ。僕の方こそお願いします。ずっと一緒にいてね?」 「当たり前だ」 祥吾さんの顔がゆっくりと降りてきて、少し冷たい唇が僕のそれと重なる。 近づく鳶色の瞳が、キラリときらめいて見えたのは、僕の気のせいだったのだろうか…。

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