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第31話 21

草むらに少し残っていた雪も溶けて地面に吸い込まれ、所々に可愛らしい春の花が咲き始めた。 鳥のさえずりも活発になり、暖かい日差しが降り注ぐ日が続く。 ある日、祥吾さんが編集者との打ち合わせに行ってくると言って、僕がプレゼントした鞄を持って出掛けて行った。 出る直前まで、「誰かが来ても絶対に開けるな」だの「やっぱり心配だから一緒に来ないか」だのと、僕を抱きしめてごねていたけど、僕が祥吾さんの唇にキスをして、「子供じゃないんだから大丈夫!行ってらっしゃい」と背中を押すと、渋々出掛けて行った。 僕よりもずいぶんと年上の祥吾さんの甘えた姿に顔を綻ばせて、玄関に鍵をかけると、洗濯機を回して部屋の掃除を始めた。 お風呂掃除もして洗濯物を干すと、僕はソファーに座って休憩を取った。 背もたれに深く凭れて目を閉じる。賑やかな鳥の鳴き声を聞きながら、ウトウトとしかけた時だった。 ピンポーンとインターフォンが鳴って、僕はビクンと肩を揺らして立ち上がった。 ーーえ?何?宅急便? 恐る恐る玄関の前に立って様子を伺う。 もう一度、ピンポーンと鳴って、僕の胸がドキドキと騒ぎ始めた。 ーー今日宅急便が来るなんて聞いてないし…。誰だろう。出た方がいいのかな…。 僕がウダウダと迷ってるうちに、玄関から離れて行く足音が微かに聞こえてきた。 完全に足音が消えてから、僕はそっと玄関ドアを開ける。 キョロキョロと当たりを見回しても誰もいなくて、何だったんだろうと首を捻ってドアを閉めようとすると、玄関ドアのすぐ下に、封筒が一つ、置かれていることに気づいた。 手を伸ばしてそれを拾い、裏表をひっくり返して見る。 封筒の宛名書きの所に、『高梨 奈津 様』とだけ書かれていた。

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