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第32話 22

僕は、封筒を握りしめて慌てて家の中へと戻る。 ソファーの前に座り込んで、苦しくなる呼吸を整えながら、もう一度宛名の名前を見た。 ーー高梨 奈津……。これは、僕の名前だ…! 記憶が封じ込められていた箱の蓋が開いて、ゆっくりと溢れ出してくる。 震える手で封筒を開けて、一枚の便箋を取り出した。 紙を開いて、ハッハッと短く呼吸を繰り返しながら読み進める。 読み進めるにつれて、どんどんと記憶が蘇り、全て読み終わった頃には、僕は完全に思い出していた。 僕の、祥吾さんと出会う以前に過ごしてきた人生を。 高梨 奈津 様 今はゆきと呼ばれてるみたいだけど、おまえの本当の名前は高梨 奈津だ。 去年末から休学になってるけど、今はM大学の二年生になる。 奈津は、M大学で教授をしている祖父と二人暮らしをしていた。高梨教授は、奈津の考えがあって消えたのだからと、捜索願いも出さなかったみたいだけど、ひどく心配をしてらっしゃる。俺がこの前、奈津を見かけたと伝えたら、涙を浮かべてらしたよ。 奈津、おまえが消えた原因は、俺だろ?俺がおまえに酷いことを言ったから。 本当に悪かった。あれは本心じゃない。周りにからかわれて、つい口走ってしまったんだ。 俺は、今でも奈津を愛してる。だから戻って来てくれ。 教授も俺も友達も、皆んな心配している。 今度は全力で奈津を守ると誓うよ。だからお願いします。戻って来て欲しい。 佐伯 理久 ……理久!そうだ…あの時、祥吾さんの誕生日プレゼントを買ったあの日、僕の前に現れたのは理久だ。 僕が好きだった人。そして僕を傷つけた人。 それに…おじいちゃん…!あの時は、もう何も考えられなくて飛び出してしまったけど、おじいちゃんに心配をかけてしまった。中学の時にお父さんとお母さんが事故で亡くなって、それから一人で僕を育ててくれたおじいちゃんなのに。 懐かしい家族や友達がいる場所へ戻らなければという思いと、祥吾さんの傍を離れたくない思いで、僕の心が二つに引き裂かれそうだった。

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