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第36話 2

青い空に向かって飛んでいた蝶は、僕がぼんやりと考え事をしている間に見えなくなっていた。 少し上に向けていた顔を元に戻して、止めていた歩みを再び始める。 しばらく歩いて大きな家の角を曲がると、大学の門が見えて、だんだんと人も増えてきた。なるべく人がいない空間を選んでゆっくりと進む。リュックを背負い俯き加減に歩く僕の肩に、いきなり手が置かれ、思わずビクン!と大きく身体を跳ねさせて声を上げた。 「わあっ!」 「ぷっ!ごめんごめん…っ。そんなに驚いた?」 僕の肩に手を置いたまま、理久が僕の隣に並び顔を覗き込んでくる。 僕は、ドキドキと鳴る胸に手を当てて、上目遣いに理久を睨みつけた。 「…驚いた。先に声をかけてよ…」 「かけたぜ?でも、奈津がちっとも気づかないからさ」 「…ほんと?」 「おうっ。ボーッとしてた。転ぶんじゃないかって見ててハラハラしたよ」 理久の言葉に曖昧に笑って、僕は視線を前に戻した。 おじいちゃんと住む家に戻って来てから、ずっとそうだ。何をしていても、僕の頭の中に祥吾さんが浮かぶ。 ご飯を食べてる時は『ちゃんと食べてるかな』、掃除をしてる時は『家の中、荒れ放題になってない?』、寝る時は『夜更かししてないかな。ソファーで寝たらダメだよ』。そんな風に、四六時中、祥吾さんの事ばかり考えている。 でもきっと祥吾さんは、僕のことなんて忘れてしまっている。忘れていなかったとしても、勝手に出て行った僕を恩知らずだと怒ってるに違いない。 そう思うと、会えない寂しさと相まって、僕の胸が抉られるように痛くなり呼吸が苦しくなる。 また俯いてしまった僕の頭に、理久が手を乗せてクシャリと髪を撫でる。そして、とても優しい目をして笑った。 「奈津、今日講義が終わったら映画に行かねぇか?奈津が見たい、って言ってたやつ。で、映画の後には、人気のパンケーキ食いに行こうぜ」 僕は、そっと顔を上げて理久を見る。僕が消える前の、自分が犯した罪を償うかの様に、理久は僕にとても優しい。 特に断る理由もないのだからと、僕は小さく頷いた。

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