38 / 42

第38話 4

祥吾さんが弾けるように立ち上がり、何かを叫びながらこちらへ駆け寄ろうとする。 僕は震える足に力を入れて、早歩きでその場から立ち去った。 「え?おいっ、奈津!急にどうしたんだよっ?」 無言でどんどんと先に進む僕の肩を掴んで、理久が呼び止める。 僕は、歩く速度を緩めると、下を向いてポツリと呟いた。 「あ……ごめん。なんか急に気分が悪くなって…。早く帰りたいんだ…」 「え?大丈夫か?やっぱり俺ん家で休んでく?」 「ううん…、大丈夫。帰れる。早く帰って休みたいから…じゃあね理久」 「ホントに大丈夫か?送るぜ?」 「ありがとう。でも大丈夫だから…」 「…わかった。気をつけろよ?」 理久が、僕の顔を覗き込んで何度も聞いてくる。 僕は早く一人になりたくて、理久に笑って手を振ると、真っ直ぐに駅に向かって歩き出した。 後ろを振り向かずにただひたすら駅に向かって歩いていたけど、だんだんと速度が落ちて、遂には立ち止まってしまう。 恐る恐る振り返るけど、祥吾さんが追いかけて来る訳がないのだ。 だって、あんなに優しくしてくれたのに、一緒にいようと誓ったのに、僕が約束を破って勝手に出て行ったんだから。きっと、文句の一つでも言おうと立ち上がったんだろう。 でも……。もう一度、祥吾さんに会いたい。いや、会えなくてもいいんだ。もう一度、遠くから姿だけでも見たい。 そう思うと居ても立ってもいられなくなって、僕は元来た道を引き返した。 途中、走ったりしながら本屋が入ったビルまで戻って来た。かなり息が苦しくなって、ビルの側面に回り、壁にもたれて呼吸を落ち着かせる。 だけど、近くに祥吾さんがいるんだと思うと余計に息が苦しくなってしまい、僕は近くに見える公園に入ってベンチに腰掛けた。 木陰にあるベンチは、爽やかな風が吹き抜けてとても気持ちがいい。やっと落ち着いてきた僕は、少し俯いて目を閉じた。 学校で講義を受け、映画を観て、パンケーキを食べ、祥吾さんに会えて興奮したこと等が重なって、僕は眠ってしまったらしい。 誰かに肩を揺すられて、ゆっくりと顔を上げる。 そして、目の前で僕を覗き込む人を見て、押さえ込んできた気持ちが一気に溢れ出した。

ともだちにシェアしよう!