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第40話 6
祥吾さんが僕の頭を抱き寄せて、優しく誘う。
「戻って来いよ、雪。また一緒に暮らそう」
僕は、ビクリと肩を揺らして、首を横に振る。
「ダメ…、ダメだよ。僕と一緒にいたら、祥吾さん…不幸になる…」
「はあっ?なんだよっ、それ!勝手に決めんな!雪が傍にいない方が、俺にとっちゃあ不幸なんだよ!頼むっ雪…っ、俺と一緒に戻ってくれ…!」
僕の首に顔を埋めた祥吾さんの背中が、震えている。耳を澄ますと、僕ではない嗚咽が聞こえてくる。
「祥吾さん…泣いてるの?」
すごく大人で、いつも頼りない僕を包んでくれていた祥吾さんが、泣いている。
そう思うと僕も胸が詰まってしまい、次から次へと涙を溢れさせた。
僕は昔、理久に言われたんだ。
僕とつき合っていることがバレて、周りの皆んなに奇異の目で見られて困惑した理久が、自分を取り繕う為に言った言葉。
『俺は、おまえに誑かされたんだ。奈津が、男のくせに女みたいな綺麗な顔をして、その白い華奢な身体で、まるで遊女みたいに俺を誘ったからっ。だから俺は、フラフラと誘いに乗ってしまって…っ。別におまえを好きでも何でもないっ。俺が男を好きになるわけないんだっ。おまえが悪いんだからなっ。おまえのせいだ!おまえは、人を惑わす悪い奴だ!』
僕は、爽やかで誰にでも優しくて人気者の理久が、好きだったんだ。理久と恋人になれて、幸せだったんだ。
だけど、理久はそうじゃなかった。僕が誘惑したから寄って来ただけだって。男を好きにはならないって。僕を、ただの性欲処理として見てたのかな。
あの時の僕は、すぐに消えてしまいたいと思ったんだ。だから、理久の前から走り去って、駅に駆け込んで入って来た電車に飛び乗って、何も考えずにお金が尽きた所で降りて、ただ当てもなく死に場所を求めて歩き続けた。
そして、降りしきる雪の中で倒れた僕を、祥吾さんが見つけてくれたんだ。
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