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第4話
「キヨ。クラス委員の君が、これから半年、ムカイ様が困らないように気を配りなさい」
お世話係として、ムカイといる時間が増えた。
それまで俺と行動していたカイも必然的に一緒にいる機会が多くなり、一気に距離が縮まった。
αだからか、それとも個人の資質によるものなのか、外見、人柄、能力……ムカイは全てが完璧だった。
学校中の好奇の目にも臆することなく、堂々としていて、「将来、確実に世界を引っ張っていく人物になるだろう」と誰もが納得する、カリスマ性とリーダーシップ。
それでいて驕り高ぶることもなく、時折見せる親しみやすい年相応の顔。
みんな、彼の魅力に夢中になった。
教師も生徒も、そして、カイも……。
ゴミ捨てから戻ると、教室から楽しそうな話し声が聞こえてきた。
カイとムカイだ。
「カイ、帰ろう?」
なんとなく教室の中に入ることが出来ず、外から声を掛ける。
「あ、キヨが帰ってきた。じゃあね、バイバイ」
「うん、また、明日。 カイもキヨも、気を付けて」
2人が名残惜しそうに別れを惜しむ。
ズキズキと胸が疼く。
カイとムカイがお互いに惹かれあっていくのが、手に取るようにわかる。
相思相愛の固い絆で結ばれている恋人たちは、俺とカイのはずなのに、恋人の邪魔をするような後ろめたい気持ちが沸き起こるのは何故だろう?
「おじさんとおばさん留守だろ? 今日、泊まってもいい? 来週分の薬が手に入ったから」
「うん……あのさ、薬は関係ないから。キヨのことが好きだから、抱き合うんだよ?」
カイが目を伏せて呟く。
俺とカイがセックスをするのは、抑制剤を渡す時だけ。
危険を冒して薬を手に入れている。
その報酬として、俺はカイの体を貪る。
カイを狂おしいほど愛している。
身を引く愛というのがあるのは、知っている。
俺だって、カイの事を本当に思うなら、身を引くのがいいとわかっている。
でも、どうしてもカイを手放せない。
諦めることが出来ない。
「これ以上、キヨに迷惑をかけるのは耐えられない。俺、やっぱりΩだって、届け出ようと思う」
「ダメだっ! いけるところまでいこうって決めたじゃないかっ!! 抑制剤の事なら、大丈夫だから。俺がなんとかするから」
「でも、俺の為にキヨが捕まってしまったら……」
「カイ? Ωって届けたからって、ムカイと番になれるわけじゃないよ? プログラムに選ばれたペアじゃないと番にはなれない。だから、ムカイと一緒にいる為にも、このままでいなきゃダメだよ?」
「違うっ! なんでわからないの? 俺がここにいるのは、キヨと一緒にいたいからだっ」
俺と一緒にいたいのは、本当だろう。嘘じゃない。
でも、ムカイとも一緒にいたいってことは、わかっている。
「ムカイに頼っても無駄だよ。ムカイには失うものが多すぎる。俺みたいにカイのために危険を冒すことはできないよ」
俺は、ワザと傷つける言葉を吐く。
きっと、ムカイならカイのために危険を冒すだろう。
ムカイは、そういうヤツだ。
とんでもなく嫌なヤツだったら良かった。
そうすれば、恋敵として憎むことが出来た。楽だったのに。
「キヨのことが大好きなのに……どうやったら、この気持ちは届くの?」
カイが俺の腕の中で、嗚咽をもらす。
届かない。
カイのどんな甘言も、表層を流れていくだけで、俺の中には入ってこない。
だって、カイのムカイへの恋心が俺の耳を塞ぐから。
だてに、16年間、一緒にいた訳じゃない。
カイのことは、全て知っている。
俺のことを大切に思うのとは別の、ムカイに惹かれてやまないその気持ちも。
カイ? 俺に時間をちょうだい?
もうちょっとだけ、こうやって抱きしめさせて。
そうすれば、きっといつかは、カイの事を諦めて、ムカイに渡す決心をつけるから。
ムカイに任せたら、全部、うまくいくのはわかっている。
ひょっとしたら、ムカイが「運命の番」かもしれないし、違ったとしても、ムカイ一族の財力と権力で何とかできるだろう。
「ムカイは、カイを選ばない。ムカイの事を愛しても無駄だよ?」
カイをとびっきり甘やかして、大事にしたい。
なのに、俺の口から出てくるのは、傷つける言葉ばかり。
どんどん、自分が嫌なヤツになっていく。
カイと隙間なくぴったりと重なり合っているのに、心が遠い。
カイの優しい粘膜に包まれているのに、寂しい。
八方ふさがりでどこにも活路をみいだせないまま、俺たちはただ抱きしめ合っていた。
抑制剤の効き目がなく、カイの2回目の発情期がやってきたのは、それから間もなくのことだった。
俺たちの高校生活は、あっけなく終わりを告げた。
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