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第6話(カイ視点)

 ムカイがやってきたのは、昼過ぎだった。 「カイ? 答えは出た?」  ムカイはニッコリと微笑むと俺の首筋をふわりと撫でた。  自信に満ちた、敗北を経験したことのない王者の表情。 「ムカイとは番になれない」  俺は、ムカイの目を正面から見据えて言葉を続けた。 「俺の心にはキヨがいる。それなのにムカイと番になるのは、キヨや自分、そして、ムカイを裏切ることになる」  それが、俺の出した結論。  キヨへの思慕は決して消せない。  その気持ちを無視して、番になることは出来ない。  そんな関係は、いつか破綻する。 「カイがキヨと付き合っていたのは知っていたよ。でも、俺と出会ってしまった。カイは俺に惹かれている。恋人がいる身で、そんな気持ちを認めたくないのはわかる。でも、仕方がない……だって、運命なのだから。認めなよ? キヨだって、わかっていたはずだよ? だから、諦めた目で俺たちを見ていたじゃない? だれも、運命には抗えない」  その通りだった。  確かに、ムカイに惹きつけられた。  光に吸い寄せられる昆虫のように、自分の意思ではどうすることもできない本能的なものだった。  キヨがそれを敏感に感じ取り、悩んでいたのも知っている。  いつか別れを告げられるんじゃないかって、俺は恐れていた。 「運命なんて関係ない。未来は自分で決める。ムカイとは番にならない」  物心がついたときには、隣にキヨがいた。  悲しいとき、嬉しいとき、苦しいとき、いつだって隣にキヨがいた。  キヨの強さも、弱さも全て知っている。  俺のことも全て知られている。  キヨは俺の一部だ。  キヨの存在を無視して、ムカイと番にはなれない。なりたくない。 「次の発情期が来れば、カイは全身で俺を求めることになる。Ωの疼きを静めることが出来るのはαだけだ。βのキヨには出来ない」  ムカイはニッコリと微笑んで、もう一度、俺の首筋を撫でた。  その表情が、先程の自信に満ち溢れたものとは違うのは気のせいだろうか? 「このまま、新居に連れて行く。次のヒートの時、ここに噛みつく。それが嫌なら全力で抵抗して? 無理強いはしない。俺の愛の深さを知れば、必ず君は受け入れる」  その晩から、ムカイとの生活が始まった。

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