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Blast 前編②

数ヶ月前もこの店にヴィーノと来ていた。 この酒が旨く飲める、夏の盛りだった。 「引退するってどういう事だよ!」 ヴィーノが机に拳を叩きつけた音が店の中に響いて、周りの視線が集まった。 俺がもう冒険者を辞めて、ギルドに届け出を出そうと思っていると告げた時の事だった。 「アルゴはBランクだし、強えんだからもっと上のランクも狙えるだろ?!」 「もうランクには興味ねえんだ。俺は」 「だったら、もっと難易度の高いクエストとか・・・!お前ならまだ上を目指せるだろ?」 「その考え方がヤベエんだよ。 まだイける、まだやれるって意地になってる内に歳食って身体が鈍っていって、自分の実力にそぐわない戦いをしてあの世行きだ。俺の親父みたいな」 ヴィーノは金髪を揺らして捲し立てるのを辞めた。そのかわり青い目で睨みつけてくる。 ブラストを口にする。店員や客に好評で、夏の定番になりつつあるとテオが言っていた。 それはまあいい。 正直、ヴィーノがここまで反発するとは思わなかった。 確かにヴィーノは二十代前半で、まだまだこれからと言う時期だ。ランクもCに上げたばかりだしな。だけど、 「俺は、ここらが潮時なんだよ」 「じゃあ、オレは・・・」 ヴィーノは俯いたまま呟いた。 「お前は若いんだし、冒険者を続けたけりゃやればいい。他のヤツとバディやパーティーを組んでも」 「ふざけんなよ!オレは今までお前に命預けてたんだ。そう簡単に、相手なんか・・・」 言葉の端が擦れて、俺を見上げたヴィーノの眦が滲んでいるように見えてドキリとした。 「オレを捨てんの・・・?」 あんな弱々しい声を初めて聞いた。魔獣にキツい一撃を食らった時でも雄叫びを上げて斬り掛かっていくような奴なのだ。 黙っていると、いや、何を言ったらいいのか考えを巡らせていると、ヴィーノが立ち上がった。 「わかった、バディは解散だ。俺はソロでやる」 やっぱりヤキが回ってきたようだ。判断力が鈍ってこのザマだ。 ヴィーノは入り口付近でウサギの耳を生やしたチビの店員を呼び止めて、金を渡していた。確か、兎の獣人のノエリオだ。でもノエリオは金を数えるのにもたついていて、ヴィーノはノエリオに怒鳴っていた。 プルプル震えるノエリオの前に黒猫の耳を生やしたヤンキーみてえな店員ーこっちはスカイだっけーが出てきて、何やら一言二言交わしてヴィーノは乱暴に扉を開けて店を出て行った。 目元を少し赤くしたノエリオは俺の前を通り過ぎる。 「すまんな、俺の相棒なんだ」 ノエリオは大きな目を潤ませながら俺を見る。 「いつもはあんなヤツじゃないんだけどな」 溜息を吐くと、ノエリオは少し鼻を啜りながら 「ケ、ケンカはよくないんだぞ」 と言った。コイツにも聞こえていたみたいだ。 「そうだな、悪かったよ」 「オレは平気なんだぞ、仲直りしろよ」 細っこい胸を反らせて偉そうにふかす。 スカイに「偉そうにすんな」ってデコピン食らっていたけどな。 まあ確かに、こんなチビに言われてるようじゃ世話ねえな。ヴィーノともう一度話をしてみよう。 それからすぐヴィーノはダンジョンに行ってしまって、まだ戻ってこない。

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