5 / 10
Blast 後編②
ダンジョンから戻ると、医者やギルドに例の植物について報告しておいた。
だが、やはり日にち薬しかないらしい。
ギルドの方では感謝されたものの、記録の書き換えに大忙しになったらしい。知ったこっちゃないが。
それからまた数日経って、ヴィーノが目を覚ましたと医療施設の受付で聞き、あいつの部屋まで走り抜けた。
ヴィーノはベッドから身体を起こし、ぼんやりと虚空を眺めていた。
「ヴィーノ!」
虚な表情でこちらを向き、顔を顰める。
ギラリと光る剣先を思い出し一瞬身構える。
「アルゴ・・・か・・・?」
おい、嘘だろ。何誰だか分かりませんって面してんだよ。
こっちはお前に散々振り回されていたんだぞ。
「悪い、まだ頭ん中がごちゃごちゃしてんだ。正直、アンタの事もよく思い出せない」
ヴィーノは唸りながら頭に手を当てる。
「お前、マジでふざけんなよ!」
ヴィーノの胸ぐらを掴んで怒鳴れば、看護師がすっ飛んできた。
まだ記憶が混濁しているのだと必死で宥められた。そんなことはわかっている。
だけど、抑えられなかったんだ。
「まだ、俺を待たせる気かよ・・・・・!」
ベッドの横でそう吐き捨てても、ヴィーノはすまなさそうに眉を下げるだけだった。
病室から締め出されて、酒でも飲まないとやっていられなくて、『苔庭のイタチ亭』に向かった。
そういやテオにこの前の詫びを入れないとな。ヤツの好物の岩石豚の生ハムとキラービー酒を持っていった。それから、ヴィーノの事についても話した。
「おやおや、記憶が・・・。それはいい度胸、いえ、おいたわしいですね」
「ハッ、そうだよな。あれだけ派手に暴れておいてな。悪かったよ」
俺のことすらまともに覚えていないなんてな。あれは流石にこたえた。
ブラストを一口飲む。
冷たい液体が腹の中に落ちて、身体の芯から冷えていく心地だ。
「おっちゃんまたそれ?俺、それ舌がピリピリするから嫌いなんだぞ」
ノエリオがピョコンと傍から顔を出す。
「舌がお子ちゃまだからだろ」
ミントの刺激と清涼感が強く、それが苦手な奴らは受け付けないだろう。
「お子ちゃまじゃないぞ。こう見えて二十歳なんだぞ」
「へえ、そいつは驚いた。チビだからもっと下だと思っていたよ」
「チビじゃないんだぞ、耳を入れれば170センチ・・・あうぅ」
ノエリオはスカイに「仕事しろ」ってうさ耳を引っ張られていった。アイツに言われたくはないと思うけどな。裏でよくタバコ吸ってるのを見かける。
「あ、そうだ、ここにヴィーノってヤツが来なかった?」
スカイはうさ耳を掴んだままテオの方を振り向く。俺は身を乗り出した。
「さっき裏でギルドの看護師に聞かれたんだ。ヴィーノってヤツが病院から抜け出したって」
「嘘だろ?!アイツまだ記憶が・・・!」
「は?記憶?」
何がなんだかわからないって顔したスカイや周りの客を無視して、カウンターに金を叩きつけて店を飛び出した。
どこまで俺を振り回せば気が済むんだアイツは!
いつもそうだ、ヴィーノはいつだって好きに暴れて、俺はその後始末ばかりだ。
ともだちにシェアしよう!