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Blast 後編③

外に出ればもう日が落ちて、あちこちの酒場や商店に明かりが入っていた。夜の帳に白い息がはっきりと浮かび上がる。 夜の街を駆けずり回って、酒場が並ぶ路地でヴィーノを見つけた。ローブを着ていたが、下はおそらく夏用の装備のままだ。 しかも、誰かに絡まれていた。 『苔庭のイタチ亭』でよく見る男だ。グループで動いている奴らだ。5、6人でヴィーノを囲んでいる。近づくにつれ会話が聞こえて来る。 「本当に俺達のことを覚えてないのか?仲間だっただろ」 男はニヤつきながらヴィーノに話しかけている。 思わず足を止めた。 あいつ、何を言っているんだ。パーティーなんて組んだ覚えはないぞ。 「お前がこの前店で暴れたおかげで、こっちに請求書が回ってきてんだ。すぐ払って貰おうか」 嘘だ。テオはヴィーノに直接渡すって言っていた。あいつらヴィーノの記憶が無いのをいいことに捲き上げる気だ。 「すまん、アンタ達のことは覚えてないんだ。それに今は無一文だしな」 眉間にシワを寄せながらヴィーノが言う。 「じゃあ装備品を預かっておく。質に入れりゃ少しは足しになる。まだ養生が必要なんだろ」 「誰が渡すかよ」 ヴィーノは剣の柄に手をかける。 男はおもむろにヴィーノの顎を掴んで横を向かせる。 「じゃあこっちの装飾品でいい。メロゥ・サファイアか。いい値がつくぜ」 男はヴィーノのピアスを見て言った。あのヴィーノの瞳と同じ色の石はヴィーノの守護石で、育ての親が持たせてくれたものだと聞いている。 苛ついてきた。卑怯者どもにはもちろん、されるがままのヴィーノにも。 なにやってんだよ。いつまでも舐めた真似させてんじゃねえぞ。 男は下卑た笑いを貼り付けたまま顎を掴む手に力を入れる。 「お前もしおらしくしてりゃキレイな顔してんじゃねえか」 もう我慢ならなかった。戦闘時の足捌きで駆け寄り、一瞬で距離を詰め、男がこちらを向いた瞬間踏み込んで殴り飛ばしていた。 ヴィーノや他の男達は、吹っ飛ばされた男を目で追いかけた後、間抜け面をこちらに向けた。 「・・・ヴィーノは俺の相棒だ」 地の底から響くような声が俺の喉から這い出た。 「ヴィーノは俺のだ!テメェらみてえな三下にいいようにされてたまるか」 ジロリと睨みつけてやったが、逆上したバカが1人剣を抜きやがった。 「テメェも得物を抜けよ。その腰の山刀は飾りか?」 やっすい挑発だな。でも乗ってやらないわけでもない。 「飾りかだって?」 俺は山刀を抜いた。 「その通りだよ」 俺は山刀を地面に放り投げる。ギョッとしたヤツの顔面を拳で打ち抜いた。 やっぱり三下だな。武器に気を取られすぎなんだよ。山刀はただの道具だ。 俺の武器はこの拳だ。 ヤツらは引っ込みがつかなくなったのか俺に向かってきた。 4人か。武器はナイフか剣。 コイツら本当に冒険者か? 遅え。 左斜上から来たナイフを左腕の防具で受けて、空いた胴体に右足の蹴りを入れる。 右足をつくと、振り向きざまに後ろから切りかかってきたヤツの顔面に肘をめり込ませた。 そして正面にいたヤツにワンツーを叩き込んでアッパーを喰らわせる。 頭を揺さぶられ、地面に沈みゆく男の影からナイフが飛んできた。右の籠手で弾き返す。 1人だけ距離を取ってダガーを構えている男がいる。間合いに入れば投擲してくるし懐に踏み込めば刻まれるだろう。 だが俺は散歩でもするようにゆうゆうとソイツに歩み寄る。ソイツは一瞬たじろいたが俺を注意深く観察している。そうだ、もっとよく俺を見ろ。 「ーーー今だ、ヴィーノ」 ソイツはハッとしてヴィーノに視線を送るが、ヴィーノはその場から一歩も動いていない。 んな初歩のハッタリに引っかかってんじゃねえよ、ド素人が。ソイツは俺の蹴りに薙ぎ払われゴミ山にダイブした。

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