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Blast 後編④
「おいヴィーノ、お前いつまでボーッとして」
「アンタ、強えんだな」
ヴィーノは目を輝かせていた。
初めて会った時と同じように。
ーーー『アンタ、強えんだな。惚れたよ!オレと組もうぜ!』
初めて会ったダンジョンの中で、敵のパーティーを全員地面に転がした後、ヴィーノは目を輝かせながらそう言っていた。
ヴィーノはあの時と同じ顔をしている。けれども、
「オレの相棒みたいだ」
と続けた。
「・・・あれ?オレ、相棒なんて
・・・ああ、そうだ、アルゴだ。オレ、アルゴに会わねえと、・・・でも、ここ・・・」
居酒屋で再会した時みたいにブツブツ言い始めた。苛立ちがすうっと引いて、虚しさが押し寄せてきた。
ヴィーノは、まだ帰ってきていないのだ。
「ちくしょう!」
ヴィーノの両肩を壁に押し付ける。
「いつまで俺を待たせる気なんだよ!いい加減思い出せ馬鹿!」
顔を近づけて見せつけてやった。ヴィーノの青い目の中の俺は、水底にいるようだった。輪郭がぼやけてて、ヴィーノの記憶の中にいる俺を表しているようだ。
悔しくて俯いた。こんなに近くにいるのに、何もできない。ヴィーノを、連れ戻せない。
「・・・ミントの匂いがする・・・」
ハッと顔を上げると、ようやくヴィーノの目が焦点を結ぶ。
「・・・これ、ブラスト?」
喉や目の奥が熱くなった。
「そうだよ・・・故郷の酒なんだろ・・・」
声が震える。もしかしたら、飲んだら思い出すかもしれない。いや、さっきまで飲んでいたな。
俺は、ヴィーノの唇を奪った。
ブラストの味や香りを舌に乗せ伝える。
ヴィーノがその気になれば剣を抜けただろう。
でもヴィーノは唇が離れるまで壁に張り付いたままだった。
「・・・なにやってんだよ」
ヴィーノは呆気にとられていた。
けれども、憑物が落ちたような顔をしている。
「こ、こんなクソ寒みぃのに、よけい寒くなるような酒飲んで、馬鹿じゃねえの」
ヴィーノは眉を潜めながら口を拭った。
心なしか目元が少し赤くなっている。
「あー・・・そうだ、オレ居酒屋で暴れて・・・うっわ絶対テオさん怒らせたな。
思い出したくなかったかも・・・」
ヴィーノは頭を抱えた。
「ヴィーノ、」
青い目が俺を見た。
「アルゴ、」
真っ直ぐに出てきた俺の名前にやたらほっとする。
「お前上着貸せ。クソ寒ぃんだよ」
俺のマントを引っ張る。マントを外してヴィーノの身体に巻き付けた。それからそのまま抱き締める。
「バッ・・・おい何すんだよ」
「おかえり、ヴィーノ」
ヴィーノは黙って、それから照れ臭そうに
「・・・ただいま」
と小さく呟いたのだった。
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