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第63話

「で、あいつらから何貰ったんだ?」  食事を終えて食器を片付けると、久世は万里のバッグと一緒に置いてある紙袋を指差した。 「あ、そうだ。まだ中身見てなかった」  結婚祝い(……)なので二人で開けた方がいいかと思い、道中勝手に中身を確かめるようなことはしなかったのだ。  ダイニングテーブルの上に乗せ、袋から取り出す。  持ち帰る際それなりに重量があるとは思っていたが、高級感のある厚手の包装紙から出てきたのは、シンプルだが洗練されたデザインの紙箱に入ったさるホテルの缶詰のスープだった。  種類は多く、定番のコーンポタージュから、聞いたことのないような名前のスープもある。 「……美味そう」 「これ、名前は出てないが一輝の師匠が監修してるやつだ。確実に美味いぞ」  それは飲んでみたい以外の何物でもない。  これは恐らく、万里の食い意地に配慮したチョイスである。  いや、食べ盛りというだけで、言われるほど食いしん坊ではないと自分では思っているのだが…。  万里の判断基準が殊更食に偏っているように言われるのは、彼らが少食だから。きっとそうだ。 「お前一人のときとかに、俺のことは気にせず飲んでくれ。あの二人は万里に持ってきたんだろうし、俺は本人の料理を食べる機会もあるしな」  一人でいるとコンビニ飯に偏る万里に気を遣ってくれたのかもしれないが、これよりも美味い物を食べられる立場にいるから自分には必要ないと言われているようで眉を寄せた。 「……ずるくない?」 「顔が本気すぎるぞ」  そこを拾うなと苦笑されても、釈然としないものは釈然としないのだからしょうがない。 「お前も『SILENT BLUE』に通ってればそのうち機会があるだろ」 「そんな美味しい機会があるといいけど……じゃなくて、折角もらったんだから、やっぱり二人の時に開けたい」  一人の時にひもじければ遠慮なくいただくとは思うが、一度くらいは二人で味わいたいと思うのはおかしなことではないだろう。  ごく普通のことを言ったと思ったのに、微笑ましげに「そうだな」と頭をぽんぽん撫でられて、相変わらずの『バンビちゃん』扱いに唇を尖らせた。  口の中で文句を言っていると、久世が覗き込んでくる。 「今日はもう勉強はおしまいか?」  至近の美形は心臓に悪いので、一声かけてからアップになって欲しい。  ドキドキしつつ、どうしようかと万里は逡巡した。  明日は昼からなので、今日は泊まっていくことはあらかじめ伝えてある。  課題を進めたい気持ちは大いにあるが、伊達と桜峰と再開した後でとても浮ついている気がする。無理にやっても集中できるかどうか怪しい。 「うん、そう。今日は、おしまい」  そういうことにした。  大丈夫だ、明日の自分がなんとかしてくれる。  …きっと。……恐らく。 「じゃ、俺と遊んでくれるわけだ」 「ま、まあ、そういうことになりますかね……」  久世との時間を優先したのが嬉しかったらしく、ご機嫌に口角を上げられると万里は逆に小さくなる。  甘い雰囲気になるのは、苦手だ。 「と、とりあえずシャワーでも……浴びようかな……」  ばんり は にげだした。 「洗ってやろうか」  しかし ばんり は まわりこまれた!  何故か往年のロールプレイングゲーム風。  ゲームならば、久世は序盤に出てきてどれだけレベルを上げても強制終了になってしまい倒せないラスボスだ。 「っそ、……それは上級者向けすぎるので」 「意識のないときは素直に洗わせてくれるのにな……」 「意識がないんだから素直に決まってますよね!?」  真っ赤な顔で万里は叫ぶ。  恥ずかしくて否定するようなことばかり言ってしまうが、久世に触れられるのは本当は好きなのだ。  それを素直に伝えることができない未熟な万里に、久世は呆れていないだろうか。  不安が溢れて視線が下がったその時、がしっと腕を掴まれた。 「やっぱり今日はお前の体を洗っておこう」  宣言されて目を剥く。 「え……えぇっ!?」 「一日の実戦は百日の訓練に勝るもんだ」  そうかもしれないが、何か違う。  だが、気の利いた反論を思いつけず、万里はずるずると浴室に連行されていった。

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