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第64話

 脱衣所のドアが閉まるなり、抱き寄せられてキスをされた。  奪われた、と表現するのがふさわしいような少し強引な口付け。  深く粘膜同士が重なりあい、万里はそれに応えるだけで精一杯になる。  合間に手際よく服を脱がされ、抵抗の隙すら与えない流れるような動作に悔しさを通り越して感心してしまう。  浴室に連れ込まれた時には、既に久世も全裸だった。  シャワーで水浸しにされると、後ろからボディソープをたっぷりとまとった手が伸びてくる。 「っあ、や、じ、自分でできる…っ」 「体洗ってるところを視姦されたいのか?なかなかマニアックだな」 「ぷ、プレイの話ではなく!」  万里は真っ赤になって抗議したものの、そんなことを言われては、己の体を洗うという行為ですらいやらしく思えてくる。  見ていてやるからどうぞやってくれ、と解放されたらどうしようと思うと、大人しく身を委ねるしかなくなってしまった。  万里が抵抗をやめたので、久世の手は遠慮なく身体を滑り始める。  恥ずかしさから目をそらせば、少しくすぐったいが気持ちはいい。  だが、そんな風に考えられたのもほんの一瞬だった。 「ちょ、そこ、は」  胸に辿り着いた両手が小さな尖りを探り、きゅっと摘まんだ。  びくんと体が揺れて、切ないような快感が全身に広がる。 「ア、や、っ……」  今まで生きてきて存在を意識したことなどない箇所だ。  男同士でも胸を弄ったりするとは思わなかった。女性のような弾力があるわけでもないのに、久世は楽しいのだろうか。  万里は、複雑だ。ここを弄られると、何かじくじくとして疼くような痛いような感覚もあり、だが快楽らしきものも感じて……。その判然としない体感に不安な気持ちになってしまう。  前回たくさん弄られたら、翌日も赤く腫れていてシャツが擦れて痛かったので、触るのは少しにしておいてほしい。 「い、たいから、ひ、ひっぱるな…っあっ!」  しかし久世の手は、万里の密かな願いとは逆の動きをする。  抗議すると、さっとシャワーをかけられて、不意打ちの熱さに高い声が出た。  久世はくるりと万里の身体を反転させ、身を屈めて今まで指で弄んでいた場所に舌をのばす。 「あっ、」 「これなら痛くないだろ」 「ああっ、や、ん、んっ、吸っちゃ、やぁ」  舌がぬるぬると敏感になった場所を這う。  ちゅう、と吸い付く音が卑猥で、腰が痺れた。  指よりはソフトな感触だったとしても、全身がきゅんとなる感覚は同じだ。  心許なくて思わず久世の頭を抱き寄せるようにしてしまう。   「も、そこ、や、だ……っ」  執拗に舐られて、足がガクガクしてくる。  縋りたいのか、押し退けたいのか自分でもわからなくなり、許して欲しいと半泣きで訴えた。  必死の訴えに顔を上げた久世は、悪い顔で笑う。 「やっぱりこっちがいいか」 「あ!」  すっかり勃ち上がり震えている万里のものを、するりと長い指が掠めた。  だが、一瞬触れただけだ。  どうして、と見上げたところに久世の姿はなかった。 「ちゃんと立ってろよ」 「え?っちょっ…、」  声のした下方へ慌てて視線を向ければ、跪いた久世が先端から蜜を滴らせて震える万里のものを咥えるところだった。 「な、そんな、こと…っ」  するな、と頭を引き剥がそうとしたが、口の中で転がすように舐られて、息を呑む。  じゅるっと耳を塞ぎたいような音を立てながら、吸い上げられ、口内で扱かれて。  逃げたい気持ちと、快楽を求める気持ちの狭間で万里は悶えた。  力が抜けて座り込みそうになるのを、眼下の肩に手をついて支える。 「だ、だめ、む、無理、だから……っ」  弱々しく濡れた髪を引っ張れば、久世は一瞬視線だけを上に向けて、更に激しい口淫を施した。 「やっ、あ!っあ、」  あの久世に、こんなことをさせている。  そう思った途端、ドクンと全身が脈打った。  自分でも驚くほどの反応だ。 「っ………!」  出る、と伝える余裕もなく、万里は久世の口の中へと欲望を吐き出した。

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