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第6話
「なにやってんだよ、そんな格好で」
えっへんとふんぞり返った姿がサマになるパツキン王子さま系外見。村人というには違和感しかない、バンドマンを彷彿させる服装。
基本的に態度は横柄だし憎まれ口しか叩かないが、専用ストーリーを進めていけばそれが単にコンプレックスからくるものだということが判明する。
攻として落とせば文字通り王子さまのように抱いてくれるし、受として落とすと懸命に不慣れな奉仕をする健気な姿を見ることができる。
素直になれない意地っ張りが自分にだけは猫みたいに甘えてくるようになる。それがライアだ。
最初はいけ好かないやつだと思っていたが、いざ落としてみたらなかなか征服欲の満たされるいいキャラクターで……結果的にオレはこいつのことがそれほど嫌いではなかった。
が、だ。
オレの中でライアは圧倒的受だが、ヴィラージュの中では……というか、シアにとっては違う。
草食動物にだって食まれる草的存在のシアからすれば、周りの男は皆「攻」だ。このライアも然り。
「貧乏教会はコート買う金もねえのかよ、だせえな」
首周りにふわっふわのファー……いかにもあったかそうなフードコートを着ているライアからすれば、神父服しか着ていないオレはそりゃ寒そうに見えるだろう。実際のところ寒い。
が、シアが他に衣装を持っていないことはライアの預かり知らぬところだ。
大げさに肩を竦め呆れ果てた表情で、ライアが近づいてくる。ふわっふわなフードのついた上着を脱ぎながら……まずい。
ゲーム内にこんな展開があったかどうかは、正直あまりよく覚えていない。
それでも、パツキン王子の脱いだ上着がどこにいくのかは容易く予想できる。これは、意地っ張り王子がちょっとやさしさを見せたことにより発生する「なあなあ和姦フラグ」だ。
「あ、や、いや……ちょっと、あれ……暑いから散歩、的な……」
「あ?」
あたたかそうなコートが肩にかけられそうになる。
すんでのところでその場から逃げ出し取り繕うと、ライアは訝しく片眉を上げた。
明らかにおかしな台詞だが、取り敢えずこれで「彼のコートを貸してもらう」シチュからは逃れることができた。
実にあたたかそうだが、あれを借りてしまってはライアエロルートにもれなく突入だ。どれだけ寒かろうが阻止せぬわけにはいかない。
コートをかけてやろうとする格好のまま固まったライアは、輩丸出しの表情でこっちを見ている。
「暑いってお前、唇の色変わってね?」
「お、おしゃれなリップだよ……」
血色不良の紫リップ。
バンドマンテイストのライアなら好きだろう。嘘。かなり厳しい嘘をついた自覚はある。
その証拠にライアの表情はなにも変わらない。変わらないどころか、ますます困惑し眉根まで寄せている。まずい。
ここは会話で撃退するのではなく、走って逃げた方がいいかもしれない。
ふと脳裏で本能が告げたが、同時に理性もこう告げた。
果たして「シア」の足で、攻略対象である主要キャラから逃げることができるだろうか……と。
「ほ、本日は……お日柄もよく、的な……」
しどろもどろ言葉を紡ぎながら、うふふと愛想笑いを浮かべる。
愛想笑い。日本人の習慣としてあまり褒められたものではないらしいが、走って逃げ出すことに不安のあるこの現状、笑ってごまかす以外にできることがない。
うふふ、うふふ……空々しい笑顔で敵の次の出方を見守る。
と、ふとライアの表情が変わった。疑惑に満ち満ちた不信顔から、悪巧みを思いついた悪人顔に。
なんだ? 本能が身構えると同時にライアが口を開いた。
「あ、なるほど。暑くなるようなことをどっかでしてきたってわけだ?」
「え」
背筋がひやりとした。
そのときにはすでに、ライアが眼前に迫っていた。
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