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第7話

 おおきく広げられたコートが視界を覆う。  まずい、と再度思ったときにはコートごとライアの腕に抱き込まれていた。  ひ、とささやかな悲鳴が喉をついて出たが、ヴィラージュキャラはシアの悲鳴など気に留めない。 「なに、誰の銜えこんできたんだよこのエロ神父」 「え、いや、違……ッ!」 「なんも違わねえだろ。この時季に暑いから外に出るなんて相当だぞ」 「ちが……ッ」  まずい。死角から銃弾を打ち込まれた気分だ。  彼コートさえ凌げばこの「なあなあ和姦フラグ」は折れ、この状況から逃げ出せると思っていたが……甘かった。  もぞもぞ身を捩って拘束から逃れようとするも、抱き込んでくるライアの力は強い。というか、シアの力が弱い。圧倒的非力……ッ!  なんぼなんでも弱すぎる。 「あの、ら、ライア、やめ……」 「なんだよ、なんもしてねえだろ。なに期待してんだよ……なあ?」  ひそひそ耳元でささやきながら、くすくす忍び笑いをもらす。耳朶に息がかかるのが異様にくすぐったくて、反射的に首を竦めた。  腕を突っ張ってひっついてくる身体を押しのけたいところだが、コートに巻かれているのでそれもできない。ただびくりと震えて縮こまっただけだ。  そんな反応にパツキン王子がまた笑う。 「薄着で外に出るくらい励んだくせに、まだ足りねえのか」 「ちが……ひッ」  ちらりと耳朶に熱いものが触った。多分、舐められた。身体が冷えていたせいで異様に熱く感じたんだろう。  過剰な反応に気をよくしたのか、コート越しにライアの手が身体を弄ってくる。  じりじりと背中を這い、ズボンの隙間に手を差し込み、ノーパンの尻を揉んでくる。ノーパン。犯されるためのノーパンだということを思い出して、また目の前が暗くなった。  左右の尻を気ままに揉み込まれるとその奥の大事な部分がぐねぐね変形しているのがわかる。  左右に割り開いたその奥に、男の指が触れてくる。中に指が入ってきた。入ってきたとわかった瞬間、本気で気が遠くなった……が、ここで暗転は非常にまずい。  さきほど無傷でいられたのは、相手がアサドだったからだ。  咄嗟にそう自らにいい聞かせ、ぐ、と鼻の奥に力を込めた。  同時に目頭がじわりと熱くなった。なんでオレがこんな目に。 「やめ、ライア……やめて……」  それにしたって、どうしてこんな弱々しい台詞しか出てこないのかわからない。  草として主要キャラ相手に強気に出ることはできない「設定」にでもなっているんだろうか。  こちらが子鹿みたいな抵抗しかしないものだから、当然ライアの手だって止まらない。人の尻に指を突っ込み、ぐいぐい揉みほぐしている。 「なんで? 足りなかったんだろ? 俺が慰めてやるよ」 「ちがう……」  こんな道のど真ん中でなにをやっているのか。  まだ夕暮れ時とまではいかないのに、なぜ人っ子ひとり通りかからないのか。  このままここで、尻だけ露出し立ちバック「なあなあ強姦展開」になってしまうのか……なんでオレがこんな目に。 「ライア、ライア……あの、ひぅッ?」  ぐ、と中を抉られ目の前に星が飛んだ。股間に直結する電流が、たしかに流れた。  驚き飛び上がる様子をライアは相変わらず悪役面でにやにや眺めている。シアの反応を愉しんでいる。 「なに?」 「やめ、そこ、やめ……あッ、んぅ……ッ」  再び耳朶が舐られた。 「どこ?」  鼓膜に直接、低い声がささやき込まれてくる。しっとりと甘い温度に背筋が震え上がる。  中を探る指は相変わらず落ち着きなく、ぐねぐねうにうに、ゆっくりと出入りを繰り返しながら電流ポイントを押しつぶしてくる。  だめだこれ。視界がちかちかした。  だめだこれ勃つわ。  セックスに尻を使ったことなんて一度もないのに、どういうわけかそれが「快楽」であることだけは理解できた。 「そこ……ッ、だめ、んんッ」  ぐ、と押されて膝から力が抜けた。倒れ込みそうになった身体はライアが支えてくれた。  あんなに冷たかった頬がいつの間にか熱く火照っていることに気づいた。  コートに包まれた身体が熱い。暑いからどけてほしい。邪魔なものは剥ぎ取って、それで。もっと……違う。だめだ。 「ここ?」  甘い声が余計に鼓膜にくすぐったい。 「もっと?」 「ちが……ッ」  否定しながらも腰が震える。力が入らない。尻を揉んでいた掌が頬を撫でてくる。  顎を持ち上げられると、鼻先にライアの顔が迫っていた。ライアの息が唇にかかる。まずい、キスされる。  キスされたら終わりだ。  そんな予感がした。  と同時に、視界の隅に人影が見えた。眼球だけ動かし、それが赤毛の青年だということに気づいた。 「あ、アサド……ッ」  縋る思いで名前を呼ぶ。  はぐれた羊を迎えにきていたらしい赤毛の青年は、ごくか細い呼びかけであったにもかかわらずこちらに気づいた。気づいて、 「シア?」  シアを呼んだ。  助かった。  アサドが近づいてきたそれだけで助かったと思った。お陰で一瞬だけ意識が飛んだ。やばかった。

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