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第9話

 ほっと安堵すると同時に腰が抜ける。 「ッ、おい。大丈夫か」  崩折れる身体にアサドの腕が回されてくる。 「なにやってんだよシア。食い物取りに戻ったら部屋から消えてるし」 「ごめ……でも、よかった」  このタイミングでアサドが現れてくれて、よかった。見捨てずにいてくれて本当によかった。  そうでなけりゃ完全に犯されていた。  ありがとう……そう呟いて、アサドの胸に額を寄せる。安心して会話ができるのは、シアとの絡みスチルのないこのアサドだけだ。  おう、と頭上から返事が降ってきて、宥めるように肩を撫でられる。その手がぴくりと震えた。  撫でていた肩を掴んで、ほんのすこし身体を離された。 「……?」  どうしたのかと顔を上げ、アサドの視線の先を辿り……身体が跳ねた。一瞬にして顔面が熱くなった。  アサドが見ていたのは、元気いっぱいになっていたオレの股間だ。  薄っぺらい神父服を押し上げ存在を主張しているのに、アサド以上に驚いた。 「あッ、いや、これは……ッ」  ライアに後ろを嬲られ、確かに快楽を覚えた。その証拠だ。  慌てて掌で押さえつけるも、シアの身体はその程度の刺激にすら震える。  アサドは見てはならないものを見てしまった顔で、鼻先を逸し遠くに視線を固定している。その気遣いが余計に羞恥を煽った。  他のキャラならこうはいかない。これ幸いとひっくり返されて、人目もはばからず犯される。  こうやって見ないよう努めてくれるのは、相手がアサドだからだ。 「これは……こんなの、放っておけば」 「て、手伝うか……?」  勝手におさまる。そう続けようとした言葉尻が、アサドの声にさらわれた。  一瞬なにをいわれたのか理解できず、思わず顔を上げる。  が、アサドは相変わらず遠くを見ている。頑なにそらした頬……というか、ふとい首筋がほんのり桃色に染まっているように見えた。その瞬間、自分の頬もかっと熱くなるのがわかった。  親切心からの申し出だ。わかっている。が、それにしたって恥ずかしい。  勃起しているところを見られ、目を逸らされ、挙げ句「手伝ってやろうか」なんて。  鼓動がやばい。なにやら無性にどぎまぎしてしまい、ぶるぶる必死に頭を振った。 「やッ、そんな……ッ、そんなのは……あ、じ、自分で……ッ」  なにいってんだオレは。こんなところでオナニー宣言してどうするんだ。  自分がまあまあの爆弾発言をかましてしまったことに気づくと、気まずくそっぽを向いていたアサドの目が、眼球だけがわずかに動き、ちらりとこっちを見た。 「自分でって……そういうわけにもいかないだろ神父さま」 「……ッ」  まさかこの世界は神父の自慰行為は禁止されているのか。やっちゃいけないことになっているのか。  散々あっためられた後に放り出され、そそり立つブツを晒しながら「触ってくれ」と懇願するシアのスチルが脳裏によみがえる。  あれはそういうことだったんだろうか。あのときの相手は誰だっただろうか…… 「あ、でも……」  いやそもそも、アサドはシアを慰み者にするキャラじゃないが、こういうのはいいんだろうか。  十八禁エロゲにとって射精の手伝いはエロには含まれないんだろうか。わからない。  頷けばいいのか、きっぱり断ればいいのかがわからない。  と、一度離した肩が再び抱き込まれた。額がアサドの鎖骨にぶつかって、視界が塞がれる。 「目ぇ瞑ってろ。んで、神さまにお祈りでもしてたらいい」  耳元で低く、アサドが囁いた。未だ混乱の中、どきりと鼓動が跳ねた。  アサド、と名前を呼ぼうとしたが……そうするよりも先に、服越しにアサドの指が絡みついてきた。  そっと握り込んできたかと思うと硬度を確かめるように軽く揺すり、それからやや強めに握り直してくる。 「あ……ぅわ……」  ゆっくりと扱かれると衣擦れの音がする。布越しでもゆるゆると刺激されれば気持ちいい。直接的な、よく知っている快楽だ。  上下に擦って、ときおり先端を押しつぶす。腰が抜ける。  かくんと膝が折れると、アサドもゆっくりかがみ込み、地面に片膝をついた。  立てた膝を背凭れに、ほぼ横抱きにされている。男に肩を抱かれ、扱かれている。意味がわからない。 「あッ、ぅ……んん……ッ」  きつく絞り上げられると腰が浮く。 「先が濡れてきた」  ぽつりと囁かれて目眩がした。気恥ずかしさに爆発しそうだった。  思わず「手伝い」の手を止めようと、股間に指先を伸ばす。が、爪先がアサドの指にたどり着くよりも先にアサドの左手に手首が捕まえられた。  衣擦れの音がひどい。  せっせと扱かれているのが目を瞑っていてもわかる。それにまんまと昂ぶっていくのも。  股間が熱く、射精感が高まっていく。呼吸が乱れ、身体が震える。  本来、ちょっと扱いて出すくらいでこんな反応はしない。あまりにも大袈裟過ぎる。  この身体は……シアの身体は、異常だ。 「あッ、だ、だめ……出ッ」 「出せよ」  終わりが近づいてくるのに、慌てて身体を離そうとしたができなかった。  一層強く抱き込まれ、扱き上げる力も速度も増した。  絶え間なく嬌声がもれる。いやだ。だめだ。出る……それ以外の言葉が口にできない。  アサドの「手伝い」は容赦なく、堪らえようにも堪えられなかった。限界を感じて身体が震える。 「いけ」  耳元でそっと命じられたその瞬間、受のお手本みたいな喘ぎとともに射精した。

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