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第10話

 まずい。非常にまずい。  やべえやべえとは思っていたが、オレは今、自分で思っていたよりもずっとやべえ場所にいる。しかも役割がまたやべえ。  ナチュラルに尻に指を突っ込まれる日常。  それになんら違和感を覚えない登場人物。  自分のちんこに触れないという謎の掟。  男が射精の手伝いをしてくれる世界観。やばい。  しかも相手は絡みがないとわかっているキャラクターだ。手コキ程度じゃ「絡み」とはみなされない設定……やばい。  この奇天烈な夢? から抜け出すことが最優先だということに変わりはないが、それと同時にどうにかして身を守る方法を考えなければならない。でないと簡単にやられる。  草食動物にだって食まれる草、これが今のオレだ。  アサドの善意の「手伝い」により派手に達した「シア」は、以降すっかり足腰が立たなくなった。  それに呆れる様子もなくアサドは再び教会へとこの貧弱な身体を連れ戻ってくれた。  貧弱。貧弱にして最弱。草。オレは草だ。  本当なら村の外に連れて行ってほしかったが、射精の余韻でびくんびくんしてしまっており、うまく言葉がでなかった。てか、なんだびくんびくんって。  普通出したら頭は冷静になるはずだ。それまでカピバラ相手に勃起できるほど興奮していたって、す、と心身ともに凪ぐはずだ。  それなのにまるで治まらなかった。  気持ちよく出したはずなのに萎えないブツに気づかれぬよう、息を殺して耐えるのに必死だった。 「取り敢えず、体調がましになったらなんか食えよ。部屋にパンとスープ置いてるから。明日また来るけど、今日はもう帰る。ライアが戻ってきたらまずい」  とっとこ、猫の子を運ぶように軽い足取りのアサドが告げる。  意味がわからず問い返すと、先程ライアにいったのは嘘だった、と答えた。  ヤンがお前を探していた。  アサドのあれは、オレを助けるために咄嗟についた嘘だったらしい。  ライアがヤンと接触すればすぐにばれる嘘だ。騙されたと知れば怒り心頭のライアはアサドに文句をいいに戻ってくるだろう。  それを見越し、しっかり施錠しておけよといい置いてアサドは爽やかに去っていった。  すこし前まで「シア」のちんこを握っていたとは思えない好青年ぷりだった。  果たして「シア」の部屋を「施錠」したところで、来訪者を阻むことはできるんだろうか……一抹の不安を覚えながらも、いわれたとおり鍵をかけ、汚れた服を脱ぎ、食事は後回しにしてベッドに潜り込んだ。  どうにもこうにも身体の熱が治まらなかったからだ。  アサドはああいっていたが、聖職者だって自慰くらいするだろう。人目がなければ……そう考え股間に手を伸ばすも、いいしれぬ後ろめたさに結局触ることができなかった。  代わりにシーツに擦りつけ鎮めようとしたが、床オナなんてしたことがないからどうにもうまくいかない。気持ちはいいが出すには至らない。芋虫のようにもぞもぞもぞもぞ蠢き続け、やがて疲れて意識が飛んだ。  おとなしくなった股間丸出しでの起床。反動みたいな賢者タイム。  昨夜の自分の醜態を思い出し、ただただ自分に引く。それが今のオレだ。   「どうしたらいいんだ……」  とにかく、いかにしてこの状況から脱するかを考えなければならない。  これは最優先事項だ。  ……が、脱出を最優先にしてしまったら身を守るのがおろそかになってしまう。  シアが保身を後回しにするのはまずい。道端でナチュラルに襲われるようなキャラだぞ。ひとたび誰かに犯されようものならモブがモブを呼び阿鼻叫喚の乱痴気騒ぎになってしまう。  しかも、だ。 「……あれ、誰だったんだ?」  ぽつりと呟く。脳裏に浮かんだのは、昨日の夜明け前……部屋に忍び込んできた「誰か」のことだ。  あれが誰だったのかは結局わからないし、あのとき咄嗟に悲鳴を上げられたことで睡眠姦フラグっぽいものを折るっぽいことには成功したっぽい。が、果たしてあれで終わりだろうか。  どう考えても終わるとは思えない。  奴はまたやってくる。そんな気がしてならない。  せめてあれが主要キャラだったのか名もなきモブだったのかだけでも確認できないだろうか。  次また同じことが起こったら、再び上手に悲鳴を上げられるかわからない。まんまと眠っている間にやられる可能性の方が高い。  そのくらいオレは寝穢い。なら、 「……ぼくのなまえはやまだたもつ……たんていさ! 的な……?」  再びぽつりと呟くと、わずかに視界が開けたような気がした。そうだ。  犯人探しをすれば、今後すくなくともその相手にだけは牽制も警戒もできる。向かうところ敵ばかりの「シア」だが、攻撃は最大の防御、それが世の鉄則だ。  草に噛まれて慄く「誰か」が、この世界でもひとりくらいいたっていいんじゃないのか。  ここから脱出を試みること。身を守ること。主要キャラには特に警戒すること。と同時に、二度目が起こらぬようあの夜の犯人探しを行う。  これが今、オレがすべきことだ。  すべきこと、としてまとめるには若干多いような気もするが、犯人探しと保身と警戒はほぼほぼイコールのようなものだ。  まずは安心して眠れる環境。枕を高くして朝まで過ごせる環境づくり。これだ。 「……よし」  すっくと立ち上がると、むき出しの股間がぷらりと揺れた。パンツが欲しい。切実に。

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