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第11話

 昨夜アサドが置いていってくれた食事は、パンとスープ。  スープというか、野菜が入ったとろみのあるそれはシチューのような感じだった。味は普通。  まあ、ヴィラージュは日本産のゲームなので、中に出てくる飯がある程度想像できる味なのは当然のことなのかもしれない。  昨夜脱ぎ捨てた服を桶に汲んだ水で洗い、窓辺に干す。水道がないのはちょっと痛い。  箪笥から新しい服を出し、袖を通す。洗って干したものとまったく同じデザイン。  ちゃんと着替えているのに着たきり雀みたいな気分。  相変わらず空気は冷たいが、昨日一日でこの寒さにもずいぶんと慣れた。嘘だ。本当は上着がほしい。寒い。  ひんやり凍える身体を両手で擦りながら、薄暗い階段を降り聖堂に出る。  昨日と同じ光景。聖なる半魚人像。  じっと見上げてもとくに尊さみたいなものは感じないが、それでも「見守っていてくれ」と心の中で声をかけた。  聖なる半魚人、今日草は歯を持つ草になります。と。  とはいえ「シア」が無防備に村を歩き回るのは非常に危険だ。  見晴らしのよい一本道ですら襲われるのに、民家が並び立つ通りなんて三歩ごとに強姦される。  では、そんな「シア」が果たしてどうやって竿役たちに反撃にでようというのか。答えは簡単。  赤髪の羊飼い、アサドだ。この世界において、唯一の味方。  あいつに相談して、犯人探しを手伝ってもらえばいい。あのやんちゃ野郎ライアも退けられる男だ、用心棒として目の前に立たせておけば数多の竿もおいそれと突っ込んではこられまい。  幸い、アサドは昨夜「明日また来る」といっていた。  危険をおかしこちらから訪ねていかずとも、ただ待っていれば向こうからやってきてくれる。  それまでの時間、退屈しのぎにちょっと掃除でもするか。一応「聖職者」ポジだし。  磨いておけば半魚人の御加護も得られるかもしれないし。  そう考え、小綺麗な布で聖像を拭いた。  ついでに像の奥の窓も拭いた。更には魔女みたいな箒で床も掃いた。アサドはまだ現れない。  計六脚の椅子も拭き燭台の蝋燭を替えるとさすがにくたびれ、椅子に腰を下ろす。  日当たりのよいその席はほんのりあたたかく、なにやらうとうとまた眠気が……かくんと頭が落ちたとき、背後で蝶番の軋む音がした。  待ちわびた来訪に瞼は全開、勢いよく立ち上がる。  が、振り向いたそこにいたのは赤毛の青年ではなかった。 「おはようございます、神父さま」  てくてく、聖堂内に入り込んできたのは小柄な男だった。見覚えがある。主要キャラだ。  名前は確か、アンジェーニュ。  幼い顔立ちでいつもにこにこ愛想のよい、村の子供達の読み書き算数を教えている教師だ。ちなみに、髪の色は……水色。  ぁゃιぃ。。。

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