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第13話
まずい。
咄嗟にこちらも立ち上がろうとしたが、アンジェーニュの方が早い。立ち上がろうとする肩を押さえつけてきたかと思うと、そのまま突き飛ばされた。
抵抗する間もなく背中が長椅子の座面にぶつかる。
アンジェーニュは、こちらの二の腕と二の腕を挟むように、胸の上に跨ってきた。まずい。
「神父さま……僕、どうすれば……」
神妙な顔をして呟くアンジェーニュが、自らの股間に手をのばす。ちょうど顎の下の位置で。
「子どもたちがね、僕のことを女の子みたいだっていうんです。女の子みたいで弱っちいって……それで、近頃あまりいうことを聞いてくれなくて」
「……ッ」
まずい。慄き瞬きを忘れた視界の向こう、アンジェーニュが悩ましげに息を吐く。
吐いて。それから、中からずるりと引っ張り出した。
萎えていても立派なブツ。顎の真下に現れたナマコに息が止まる。視線がそこに釘付けになる。でけえ。
「僕ちゃんと男なのに。ほら、つくものだってついてる。男としても、ちゃんと機能してるんですよ……?」
「ひ……ッ」
ぴたぴたナマコで頬を叩かれて身体が震え上がった。
見下ろしてくる顔は真面目に悩みを打ち明けてくる美少女そのものだが、その行動は変態としかいいようがない。ちんこビンタなんて生まれて初めて。
「あ、あの……ッ、あ、あん……あんじぇ……オレはッ! オレは十分わかってるんで! しまってください!」
顔の近くにナマコがあるのは、精神的にとってもよろしくない。
だめだ。やっぱりこっちがだめな方の選択肢だったんだ。
内心焦るも、跨ってくる足でがっちり腕を挟まれているので身動きがとれない。
なにより今は選択の間違いを悔いている場合じゃない。
アンジェーニュ素敵! 男らしい! 格好いい! そんな思いを込めて訴えるも、憂い顔のアンジェーニュの表情は晴れない。
「しまう? 神父さまも、僕のこの顔にコレがついているのはおかしいって思ってるんですか? 女の子みたいだと?」
「ちがッ、ひぇ……ッ」
ひたり、と唇に先端が当たった。ナマコと初キッス。
下唇にちょんと触れられ飛び上がり、慌てて顔を背ける。
咄嗟に突き飛ばそうにも、肘から下がぱたぱたするばかりで抵抗らしい抵抗もできない。
「僕は男ですよ……口、開けてください」
「……ッ!」
そっと命じられて血の気が引いた。
まさかこいつ、悩み事を打ち明けながら人の口にナマコを突っ込む気じゃあるまいな。いや絶対にそうだ。
ナマコなんて今まで銜えたことはないし、銜えたいとも思わない。さすがにこの命令に従うことはできない。
ぶるぶる頭を振って拒否を示す。見下ろしてくるアンジェーニュは、それにわずかに目を細めた。
「開けて」
伸ばされてきた手に頬を撫でられた。顎先を掴まれたかと思うと、下に引っ張られた。
抵抗しようにも敵わず、顎が勝手に落ちる。
開いた歯列の隙間に、舌の上に、ナマコがぴたりと乗ってくる。まずい。再び考えたときにはすでに、ずるずると中に踏み込まれていた。
「あッ、ん、ぐ……ッ」
萎えたナマコが口内に侵入してくる。舌で押し返そうにもぬるりと滑る。
咄嗟に口を閉じようとしても、顎が押さえられているのでそれもできない。
「んッ、んぅ……ッ」
舌の上をずるずる這われると、口内に勝手に唾液が溢れた。溢れた唾液が閉じられない唇の端からこぼれる。
人の口の中にナマコを突っ込んだアンジェーニュは、依然憂い顔のままゆるりと腰を揺する。表情と態度の違和感がすごい。
「ほら、こうやって刺激すれば、僕のだって反応します。女の子じゃ無理ですよね、こんなの」
「ふぁ、あ……ッ」
萎えていてもでかいので、先の方しか入らない。けれども、先端で上顎を撫でられ背筋が震えた。
咄嗟に舌が跳ね、口内ですこしずつ形を変えていくナマコに絡む。
ぬるりと竿を舐められたのが好かったのか、アンジェーニュが聖女のようにささやかな微笑を見せた。
「おいしいですか? 神父さま。お好きなんですよね……?」
「あんッ、ん、んむ……ッ」
揺すられて息が詰まる。違うと否定しようにも、口の中いっぱいにナマコがいるので言葉が出てこない。
先端で口内をくすぐりながら、入り切らないところはゆるゆる自分で扱いている。お陰でどんどんおおきくなってくる。
苦しいとか気持ち悪いとか色々思うことはあるのに、実際は舌や上顎、喉の粘膜を刺激され言葉にならない喘ぎばかりがもれた。
気持ちよくはない。それなのにあふれる唾液が止まらない。
唾液の絡んだ先端をくちゅくちゅ捏ね、アンジェーニュはうっとりと自らを育て上げていく。
耳朶を揉まれると背筋が粟立つ。
首の真下に跨がられ、無理やり口に突っ込まれ、快楽なんて微塵もないはずなのに……じわりと下肢が疼く。
完全に勃ち上がり奥まで銜えさせるのは無理だと理解したらしいアンジェーニュは、先端だけを口内に差し込みせっせと竿を扱いた。
女の子に見えるのが嫌だなんだといいながら、完全に男としての快楽に酔う表情をしていた。
「んッ、んんッ、んぅ……ッ」
口の中にじわりと、唾液とはまた違う味が広がる。まずい。
顔を背け最悪の事態を避けようとするも、浅く出入りするナマコがそれを許さない。
「あッ、しんぷさま、シア……ッ、ぼく、もう……ッ」
うっとりと喘ぐアンジェーニュが限界を訴えてきた。まずい。
口の中に出されたら終わりだ。
なんとなくそういう気がした。
扱き上げる手が加速する。恋人に抱かれる少女のような顔をして、アンジェーニュが喘いでいる。まずい。だめだ。どうすれば。
「あ……ッ、く、んん……ッ」
ひときわ大きく啼いたアンジェーニュが、ぶるりと身体を震わせる。
ボロい蝶番の軋む音が聞こえたのは、その直前のことだった。
礼拝堂の扉が大きく開き、中央の通路に光の筋が伸びる。誰かが来た。
それに驚いたアンジェーニュが反射的に腰を浮かせたので、ナマコの先端から飛び出したナマコ汁は口内ではなく顔にかかった。
顎から唇、頬から目尻、髪まで飛んだのがわかった。なまあたたかい飛沫が肌に貼り付く。最悪で最低で最悪の感覚。
それでも、口に出されず済んだことに頭のどこかは安堵していた。
この状況で呑気にもホッとできたのは、扉を開いてやってきたのがアイツだと……心のどこかでわかっていたからかもしれない。
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