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第18話

 長身のアサドの服はがばがば過ぎて多少動きづらかったが、なにより寒くないのがいい。  しっかり上着も着込んで、草原に羊の様子を見に行くというアサドについていく。  広々とした草原に放たれた羊は、思い思いの場所で草を食んでいる。牧羊犬が駆け回っていて、それが昔飼っていた子に似ていたので俄然テンションが上った。  ボーダーコリーで名前は「花ちゃん」。ちなみにオス。  オレとしてはもっと格好いい名前がよかったけど、莉緒ちゃんが頑として譲らなかった。  当時の莉緒ちゃんにはなんにでも「花ちゃん」と呼びかける習性があった。  仕事に慣れたアサドは、犬と一緒に草原を駆けたりしない。  けど、犬とはしゃぐオレに付き合ってときどき走ったり飛んだり寝転がったりしてくれた。  このおそろしい世界でこんなに笑えることがあるなんて思わなかった。というくらい、笑って駆けてまた笑った。 「先に家に戻ってて。羊を小屋に戻したらすぐ追いかける」  すこし離れた場所から叫んでくるアサドに頷き、上がったテンションのまま身を翻す。  向かう先がアサドの家……というか、あの辛気臭い教会じゃないと思うだけで気分が明るくなる。  空はオレンジ。美しい夕焼けだ。ちゃんと上着を羽織っているし、駆け回って汗をかいたから冷たい風も心地好い。  ご機嫌で家に戻ると、取り敢えず厨房で火を点ける。  夜になれば寒さが増すし、夕食を作るのにも火がいる。居候するんだからできる手伝いはやらないと。  四苦八苦して竃に火を点し、上着を仕舞っておくため二階へと上がる。  二階の部屋には「誰か」がいた。  すっかり油断していたため、部屋に踏み込むまでそれに気づけなかった。  鼻歌混じりに駆け込んで、ソファ代わりにベッドに腰掛けている男に気づき、身体が飛び上がった。 「おかえりアサド……て、シアじゃないの」  来訪者もこちらを見て驚いている。その顔に覚えがあった。  深緑の髪。ゆるく波打った長いそれを、うなじの位置でひとまとめにしている。  いつでもすこし眠そうな胡乱な瞳。ナンパな微笑。  ヤンに一目惚れし、ことあるごとに彼を口説く軟派狩人。名前はアルディ。  ヴィラージュの主要キャラのひとりだ。

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