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第19話
まずい。
教会じゃあるまいし、戻ったアサドの部屋に「誰か」が入り込んでいる可能性を考えていなかった。立ち止まり、反射的に逃げ出しそうになる。というより、逃げ出すのが絶対に正解だ。
最初からヤンに好意を抱いており、最初は軽く混じりに……個別ルートを進めていけば驚くほど熱っぽく愛を囁くようになる。
ヴィラージュにおける主要キャラで唯一、攻守が固定されているキャラ。
それがアルディだ。
長身のアサドよりも更に背が高く、手足が長い。
ガチムチではないが、なんだ……こう、イラストからもあふるる攻感というか……とにかく、我儘坊ちゃまヤンもこの男相手なら素直に足を開く。どろどろに甘やかされ、潤んだ瞳のトロ顔を晒す。
獲物はアンジェーニュみたいなナマコじゃない。
まあその体格ならそれくらいあって当然だろうな、という程度だ。が、オレはこいつのちんこは……というかこのアルディという男はウミヘビだと思っている。
顔は無害そうなのに口を開けばギザギザの歯がずらり。そういうイメージ。
この男を攻略すると、アルディはヤンをそりゃもう情熱的に抱く。
生意気なヤンがもうだめだと泣き言をもらしても、お前と繋がれて嬉しい、だめだなんてつれないことをいわないで、いうなら「もっと」っていって欲しい……甘ったるくそう囁くのだ。
この軟派狩人にすっかり骨抜きにされているヤンは、請われるままに「もっと」と囀る。アルディは幸福そうに「そうだね」と頷いて、行為は朝まで終わらない……
正直、最短ルートの輪姦エンドと内容的には変わらないと思う。
あのときは四、五人に代わる代わる犯されたが、アルディはたったひとりで五人分くらいの働きをみせる。
慎ましきヤンの穴が広げられっぱなしになるという事実は、相手が複数だろうがひとりだろうが同じだ。
なのにヤンは愛に啼く。なんだかんだ、絶倫遅漏のアルディに付き合って、何度も勃起し射精する。恋って不思議。
そんなアルディは、アサドと仲がいい。という「設定」だ。
だから、これは不法侵入ではないのかもしれない。ふたりにとっては日常なのかもしれない。
そう思うも足は竦み、脳内では警鐘が鳴り響く。逃げろ逃げろこいつはやばい。
いわゆるスーパー攻様だぞ、と。
「なに、アサドと一緒? おれあいつに話あったんだけど、出直した方がいいかな」
腰掛けていたベッドから立ち上がり、アルディがぐぐっと伸びをする。眼前にいる「穴」にはまったく興味を示さない。
それでもこいつを警戒せずにいられないのは、
「あ、いや。羊しまってるだけだから……多分、すぐ来」
つ、と扉を指差しかけた視界、左端からにゅっと手が伸びてきた。かと思うと、手首ががっしり掴まれた。
同時に身体が斜めに傾ぐ。この間、数秒。すぐ来る、の「る」すら口にできなかった。
ぐるりと視界が回ったかと思うと、次の瞬間にはもうベッドに転がっていた。
「ま、ならシアでいいや」
人の身体をベッドに放り投げ、腹に乗り上げてきたアルディがにっこり笑う。これだ。
最初から最後までヤン一筋。頑張って通い詰め高感度を上げる必要もない。なにをしたということもないのに勝手に惚れてくれるチョロインならぬチョロヒーロー。
こんなにも一途なアルディにも……シアとの絡みがある。
プロの殺し屋も真っ青な素早さに茫然自失、数秒ぽかんと男を見上げた後、びくんと身体が大きく震えた。
驚きが数秒遅れでやってきた。
「あッ、いや! けどッ! もう来るから……ッ、アサドもうすぐそこんんんぅ……ッ」
がぶぅッと口を噛まれた。違う。キスされた。
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