20 / 36
第20話
でっかい手、それも片手で軽々頬を挟まれ、開いた口の中に舌が押し入ってくる。
挨拶代わりに口内をひと舐め、こちらの舌をきつく吸い上げ濡れた音を響かせながら離れていく。
「ていうか、君の方がいいかも」
意味不明な呟きとともに、アルディの手が服を弄ってくる。
まあまあ雑に胸板を撫でるとすぐに「シア」の乳首を探り当てた。軽く引っ掻かれ息が詰まった。一瞬頭の中が真っ白になった。
まさかこの身体、乳首でも感じるんじゃあるまいな……そんな大いなる不安に襲われたからだ。
「あッ、アルディ、あれッ、アサド来るから! すぐ来るから! ほらもうそこに……ッ」
「おれ、毎日口説いてんのに。ヤンってば全然相手してくれないんだよね……」
全然聞いていない。
ぼやきながらも乳首をカリカリ、そのたびにひやひやした。乳首では喘ぎたくない。さすがに。男として。
危険を除くべくアルディの腕に手を伸ばす。が、手首を掴んでもまったく敵う気がしない。太い。力強い。というかマジで全然敵わない。
焦って掴んだ手首と「シア」に跨り平然と恋愛相談を始めたアルディを交互に見やるも、軟派狩人はこちらを見てすらいなかった。
顔を斜めに傾げて、難しく唸っている。その間も乳首を掻く指は止まらない。
「いっぺん寝たらきっと好きになってもらえるから、一回だけ試してみようよってお願いしてるんだけど……本当、手応えゼロでさ。自信なくすな、みたいな」
手首を掴んでいた指が、そっと剥がされた。そっと剥がされただけでまんまと剥がれた。貧弱過ぎるこの身体が憎い。
シャツの裾を押し上げて両手を纏められそうに……いけない! 自前の危機回避能力で華麗にスルー……できなかった。普通に縛り上げられた。
たくし上げたシャツで器用に両腕を纏めたアルディが、転がる「シア」の耳の横、余ったシャツの裾を押さえる。
お陰で全然腕が動かない。やばい。
どうにか逃げ出せないかと蠢くも、相手はあのでかいアサドよりも更に長身だ。しかも狩人。ガチムチではないが細マッチョ。対する「シア」は草。絶望。
「アルディッ、だめだ! ヤンが好きなら浮気はいけないッ」
「任せてくれたらめちゃくちゃ奉仕するのに……浮気?」
「あ……ッ」
ぎゅ、と抓られて声が出た。
乳首から心臓に向けて、木の根みたいな形の電流が走ったのがわかった。まずい。
「浮気じゃないよ。ていうか、なんでおれが君と? いざというときのために、自分の力量を知っておきたいんだよ……こういうの、どう?」
「あッ、んん……ッ」
身を屈めたアルディが片方の乳首に唇を寄せた。ちゅう、と吸い上げられてまた電流が走った。
当人を前にして……どころか押し倒して乳首いじりながら「なんでお前と?」なんて言葉を口にできる一途キャラ……サイコパスみがあってこわい。
ちゅっちゅっと小気味良く吸われ、徐々にかたくなっていくのがわかる。ぷっくりと形を現してきた突起が、舌に押されて斜めに傾ぐ。
舌先で先端を抉られたかと思うと、もう片方には爪を立てられた。
水を飲む犬みたいに舐められる前後左右になぎ倒されるたびにぴりぴりする。
「やめ……あ、んッ、ん……ッ」
きゅっと摘まれ上下に扱かれると、じわりと下肢が疼く。
摘む力は強く、わずかに痛みを覚えるくらいなのに。
「噛まれるのと吸われるの、どっちがいい?」
「どっちも……ッ、や、あッ」
ぺしゃぺしゃ乳首を舐めていたかと思うと、強く吸い上げてくる。と思うときつめに齧られて腰が跳ねた。
「齧られるのがいいのか」
乳首を含んだままアルディが微笑する。
その間も捏ねられている左の乳首が痛痒い。捏ねられ、押しつぶされ、爪を立てられ扱かれる。
痛くて痒い。背骨を伝って尾てい骨まで電流が流れていくのがわかる。
痛痒い左の乳首も、滑って熱い右の乳首も、どちらも痺れる。じわじわと下が反応しているのがわかる。
だから多分、無意識に内腿をすり合わせてしまったんだろう。
アルディが再び笑って身を起こした。
シャツを押さえていた手が、唾液でぬるついた右の乳首を捏ねてくる。左乳首をいじっていた手は、するりと伸びて股間を撫でてきた。
驚いた。身体が跳ね、ぎゅっと閉じていた目が開くくらいに驚いた。
「あッ、だめだ……そっちは! いらないッ、さわるな!」
なににそんなにも驚いたのかは自分でもよくわからない。が、この男に触られるのはだめだと思った。
掴まれ扱かれ射精したら終わりだという気がした。
「なんで? せっかく相談に乗ってもらってるんだから……お礼くらいするよ」
サイコパスみの強い愛の狩人は、こちらの懸命な訴えなど意に介さない。
ずりおちないよう縛っていた紐を易易と解き、スボンをずらし、勃起したその先端を指で撫でる。一番敏感なところを撫でられ、反射で出そうになった。が、どうにか堪えた。
「やめ、やだ……ッ、やだ、あ……ッ」
握られた。軽く揺すられた。
たったそれだけで先端からあふれるのがわかる。だめだと主張する割に喜んで涎を垂らす様子にアルディが笑っている。
ゆるゆる扱きながら乳首を捏ねられ、乳首に気が向くときつく握り込まれた。
どちらかに意識を向けたらすぐに、もう片方の存在を思い出させられる。
先走りで濡れそぼった下肢からちゅくちゅく音が聞こえる。
「いい反応だね……ヤンもこんななら、いっぱい楽しませてやれるのに」
薄笑いのアルディが囁く。いやだといくら訴えてもやめてくれない。
気持ちいい。
「あ、ん……ッ、んんッ、や、ぁさ、ど……ッ」
縋る思いで助けを求めるも、赤毛の羊飼いは現れない。羊をしまうのにどれだけ時間がかかっているのか。
シアの口からアサドの名前が出たことに、アルディはすこし驚いたようだった。
一瞬だけ目を丸くさせ、けれどもすぐに薄笑いを取り戻す。取り戻して……それから、徐に扱く手を速めた。
「こんなところアサドに見られたら怒られそうだ。あんまりじっくり遊んではいられないね」
「やだッ、やだぁ……あッ、やぁッ」
いつの間にか「相談」が「遊び」に変わっている。これだからサイコパスはいけない。
だめだと訴えれば訴えるほどに、攻め立てる手の動きが増す。だめだ。出る。
じわりと視界が滲んで、涙がこぼれたのがわかった。出したら終わりだ。そんな気がするのに、もう我慢ができない。
「あッ、あん……ぅ、んッ」
もうだめだ。
堪えきれない射精感に、多分、一瞬意識が飛んだ。そのとき。
「こらぁッ! なにやってんだお前はッ!」
地を這う怒声が轟いた。
快楽よりもそっちに驚いて、反射的に出たかと思ったが……奇跡的にもまだ射精には至っていなかった。
とどめを刺しにかかってきていたアルディの手が止まる。
びっくり眼で顔を上げるとそこには、青筋立ててギラッギラの目でアルディを睨むアサドがいた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!