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第22話

 一体なんのことだ、と抱き寄せてくる腕の隙間から顔を上げる。  アサドの視線は、剥き出しになった下半身に向いていた。勃ってる。  アルディの乳首責めにまんまと勃起しあわや発射寸前までいった「シア」のちんこ。まだ勃ってる。持続力がすごい。  普通は萎えるだろ……と冷静に考え、まあ「シア」だしなと溜息を吐きそうになり、そこを凝視されていることを思い出した。  思い出した瞬間、びょんと身体が飛び上がった。 「いやッ、これは……ッ! 違う!」  一体なにが違うのかは自分でもよくわからない。  さっとアサドの腕から抜け出し、膝下までずり落ちていたズボンを引き上げる。  放っておけば勝手におさまるから。いつぞやと同じ主張をすると、いつぞやと同じようにアサドは溜息をついた。 「手、どけろよ」 「やだッ」  ぎしり、とベッドを軋ませてアサドが身体の向きを変えた。  手で覆って隠しているところを指さされ、慌てて頭を振った。が、それでもアサドはじりじり距離を詰めてくる。  尻這いで後ろに逃げるも、すぐに壁。追い詰められた。 「どけろ」  再度命じられ、今度は言葉なく頭を振った。  何故だろうか。先の展開が想像できる。アサドは多分、ここに顔を突っ込んでくる。  何度も世話にはなったが、顔を突っ込まれるのには流石に抵抗がある。  ぷるぷる頭を振る。別の意味で涙が出てきた。  アサドに銜えられるなんて、こんな恥ずかしいことはない。それなのに、その絵を想像して股間が疼く。  穴役とはいえ「シア」もやっぱり男だということだろうか。 「そのままにしておけないだろ? シア、いいこだから……」  困った表情で懇願されると、こっちのほうが我儘をいっているような気になってくる。絶対にそんなことはないとわかっているのに、後ろめたい気持ちになってくる。  シア、ともう一度名前を呼ばれると、手は勝手に動いた。  羞恥にぶるぶる震えながらも、昂ぶった股間を晒した。  勃起したものがズボンの前を押し上げている。前は布越しに処理してくれたが、きっと今度はしてくれない。きっと今度は脱がされる。きっと、 「ずらすぞ」  短く断られると、ズボンの穿き口に指がかかった。もともと尻の下までしか上げていなかったズボンが、再び膝の位置まで下げられた。  アサドの手はそこでは止まらなかったので、こっちから手を伸ばし止めた。全部脱ぐのは恥ずかしい。  この期に及んで抵抗する「シア」にアサドは呆れたようだったが、無理に剥かれることはなかった。が。 「ぁわ……ッ!」  溜息ひとつとともに膝裏を持ち上げられて、口から悲鳴が飛び出した。  その拍子に尻の位置がずれたので、背中の後ろにできた隙間に頭が嵌った。  身体を二つ折りにしてきたアサドは、ズボンが許す範囲で足を開く。開いた足の向こうに、股間を凝視するアサドが見える。  とんでもない格好だった。とんでもない。正常位……セックスの態勢だ。 「アサド……ッ」  開いた足の間には、ちょうど頭ひとつがおさまるだけの隙間。  嫌な予感に慌てて名前を呼んだが、呼び終えるよりも先に勃起がなまあたたかいものに包まれた。  のしかかったついでに更に強く膝裏を押されたので、股間の様子はズボンが邪魔をして見ることができない。けど銜えられているのがわかる。 「ひッ、ぅ……」  銜えた中でぬるりと舐め上げられて、尾てい骨から首の裏までぞくぞく悪寒が駆け上がった。  寸止め放置だったせいか、限界が早い。何度か吸い上げられるともう出そうだった。  地味に根本を扱かれているのもまずい。 「アサド、アサドッ、やめ……あ、ぅ」  それでも止めようとすると、根本からきつく絞り上げられた。とろりと先端からもれたのがわかった。  その様子を多分アサドは間近からみている。つるりとした勾配を流れるのを見守ってから、舌で舐め取っている。  先端の窪みを舌先で抉られた。観念して出せと命じられたような気がして、目の前に星が飛んだ。 「けど、出さないとおさまらないだろ?」  ゆるゆる扱き上げながらぺしゃぺしゃ竿を舐める。やわやわ袋を揉み込まれるのもまずい。  だらだらあふれるものを止めるに止められず、くちゅくちゅ体液を捏ねる音が耳を犯してくる。  直前で放り出されていた感覚が見る間にせり上がってくる。 「でも、でも……ッ」  このままでは口に出してしまう。  それだけは阻止したい。出したら終わりというほどの強迫観念はないが、ただ恥ずかしい。  自分の体液の味をこの男に知られるのが、ただただ恥ずかしい。  それなのに、涙ながらに訴えても追い立ててくる手は止まらない。先端を舐め取り竿に吸い付き、ときおり銜えこんで喉奥で締めつけてくる。出そうでつらい。 「アサドッ、あ、んッ、だめだ、ほんとに……ッ」  自分では触れないとされている股間に手をのばす。  直接触ることはできずとも、それに食いつく男の髪を掴むことはできた。意外とやわらかい。  赤い幻影がちらちらと視界をかすめる。いかされる。この男にまたいかされる。  身を捩っても頭は離れず、髪を掴んでも指の隙間がくすぐったいだけで男の愛撫は止まらない。開いた内腿がぶるぶる震える。  袋のすぐ下で「穴」がひくついているのがわかる。  一瞬だけ……ほんの一瞬だけ、もし犯されたらと考えた。  もし犯されたら。穴を穿たれ、内側から快楽を煽られたら。  どんな感じがするんだろうか。 「だ、あッ、でる、出る……ッ」  脳裏をよぎったのは、アサド相手のセックスだった。  この男に抱かれ穴で達する「シア」を妄想したその瞬間、堪えきれない熱に流され先端から吹き出すのがわかった。  一滴残らず絞り出そうとでもするように、勝手に腰が揺れる。はしたないその欲望を叶えるべく、ちゅちゅう数度吸い上げられる。  下腹に溜まっていた熱からやっと解放された。目眩がするほど気持ちよかった。  ぐったり全身脱力するも、上がった息はなかなか整わない。  搾り取られたものが、その後どこに消えたのかもわからない。  ただ、極限の瞬間にとんでもない妄想をしてしまった自分に驚いていた。アサドとセックスなんてありえない。  誰もが「シア」を抱くが、アサドだけは抱かない。そんな相手との行為を妄想するなんて。  どうかしている。

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