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第24話

「ねぇ、暇してるならちょっと寄ってかない?」  がっしり肩を抱いてのお誘いに膝が震えそうになる。  気軽に人の肩を抱き、こちらを見下ろしてくるのは……やたらと顔の綺麗な男だ。  ピンクと緑の入り交じる髪色で、いつも村にはそぐわぬ派手な格好をしている。背中にはギターによく似た楽器。  正直「シア」の「神父」もどうやって生計を立てているのかわからないが、それ以上に意味不明な存在。家すら持たない吟遊詩人。  名前はシャオメイ。  自称綺麗なお姉さんだ。 「いえ、あの……急いでるんで。ほら」  早く帰らないと、と両手に持った卵を見せる。  金だけ持って身ひとつで出てきたせいで、しまうところがない卵。仕方なしに両手で持って家路を急ぐ帰り道。  ほれ、と卵を見せたが、残念ながらシャオメイにはなにも届かなかったらしい。  手元に目をやり一瞬だけ小首を傾げたが、すぐにまたにっこり笑顔に戻った。 「急いで帰っても雛なんて出てこないじゃない。ほら、ちょっとだけ遊ぼ。ね?」 「いや、ちょ……ッ」  まずい。ぐいぐい肩を引っ張られる。たたらを踏みながらも足がそっちに引きずられる。これはまずい。  遊ぼ、の言葉に恐怖しか感じない。 「あの、あれッ、早く帰ってあっためないと! 卵がッ」 「孵らない孵らない」  聞いてくれない。 「でも奇跡が……ッ」 「起こらない起こらない」  だめだ。  そもそもいいわけが適当過ぎる。  気ばかり焦って周囲を見回すも、赤毛の村人はいるがアサドはいない。当然だ。  奴はまだ草原にいるし、そもそもうどんで驚かせようと思って「今日は外出しない」と嘘をついている。  オレを疑っていないアサドは、鍵を替えたこともあり、なにも心配していないだろう。  つまり、昼に家に戻ってくることはない。戻ってきてオレの不在に気づき、探しにきてくれることはない。  つまり、今どこぞに連れ込まれたら助けは来ない。絶対に。 「やめ……ッ、やだ、はなせ……ッ」 「まあまあ」  どうにか腕から抜け出そうと試みるも、シャオメイの力は強い。違う。  シャオメイも強いかしれないが、とにかく「シア」が弱い。最弱。子猫にも負ける腕力。草……  引きずられ、一歩進むごとに目の前が暗くなる。  頭の中、必死でシャオメイの性癖を思い出そうとするも、焦ってこいつがどんなタイプだったのかもわからない。  わかるのはただ、まあまあいい声で女っぽく喋る自称綺麗なお姉さん、カッコ本当は綺麗なお兄さんカッコ閉じ、ということだけだ。 「しゃ、しゃおめ……ッ、シャオメイ!」 「やだぁ……シャオ姉って呼んでよ」  メとネの違い。ちっちゃなこだわり。気にして欲しいのはそんなところじゃないのに。  意気揚々と進むシャオメイは、薄暗い通りに面した木の扉を開いた。  最後の抵抗にと扉を掴んだが、難なく引き込まれた。熱い。震え上がるほど寒い季節だというのに、めちゃくちゃ暑い。  一歩踏み込むや皮膚を覆ってきた熱気に驚き、一瞬抵抗を忘れた。  その隙に扉はぱたんと閉じられた。 「はぁい、可愛いの連れてきたよぉ」  中には炉があった。  暖炉とは違う。暖炉にしては熱すぎる。その前に腰掛けていた男が、シャオメイの呼びかけに振り向いた。  振り向き顔を見て、息が止まった。  筋骨隆々。これぞガチムチ。ヴィラージュにおける圧倒的兄貴分。  ガイルだ。

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