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第27話

 その子、離してやってくんない?  確かにアルディはそういった。  恋愛相談と称して乳首を弄り倒しアサドにぽかっとやられたアルディの口から、よもやそんな台詞が出てこようとは……  あまりに想像外の台詞にオレを含め一同唖然。ガイルもシャオメイもぽかんとしている。  が、当のアルディは平然としたものだ。 「その子さ、今アサドの家にいるんだよ……意味、わかるだろ?」  わからない。わかるわけがない。  が、アルディのその言葉で、驚くほどすんなりとふたりの手が離れていった。  ガイルは「なるほど」と呟き、シャオメイは「あらぁ」と口元を指先で隠した。語尾にハートマークが見えた。どういうことだ。  得体のしれない液体を塗られた穴は、まだじわじわじくじくしている。  それなのに、つい今しがたまでの性欲はどこへやら、男ふたりで「シア」の身だしなみを整えてくれる始末。意味がわからない。  わけがわからずアルディを見ると「な?」とイミフな相槌を求められた。  身支度はさっさと整えられ、ガイルもシャオメイも笑顔で見送ってくれる。サイコパスがここにもふたり。こわい。  逃げ出せるものならさっさと逃げ出したいが、いかんせん足腰が立たない。  歩こうとしてかくんと膝が折れると、苦笑したアルディに抱き上げられた。まずい。  このままどこぞに連れ込まれたら……めちゃくちゃヒヤヒヤしたが、ガイルの家を出、すこし歩き始めてもアルディの行動に不審なものは見られなかった。  てくてく、男ひとりを抱えているとは思えない身軽さで、アルディが進む。  向かっているのはアサドの家だ。方向でわかる。  ということは、本当にアサドのところに送り届けてくれるつもりなんだろうか。 「……アルディ……あの、なんで……?」  明らかにこれまでのパターンと違う。  アサド以外の主要キャラが助けてくれるなんて。  普通なら意気揚々と参戦してくるはずだ。思い思いに「シア」の身体を弄り、代わる代わるに穴を使う。  シアが泣こうが関係ない。自分たちが満足するまで宴は続く……はずなのに。  一体なにが起こっているんだろうか。  なにか、キャラクターの態度が一変するような「フラグ」を立てたんだろうか。わからない。  ひとりで考え込んでいてもさっぱりわからないので、結局アルディに訊ねる。  愛の狩人は先日のことなどすっかり忘れた様子で、軟派なお兄さんそのものの笑顔を向けてきた。サイコパスこわい。 「なんでって、さすがに身体がつらいだろ?」 「……?」  どういう意味だ?  連日のエロハプニングに疲れているだろう……そういう意味だろうか。  けど、だとしたら「どの口がいってんだ」とオレはこの男の頬をこれでもかと抓らなければならない。  一応助けてもらったのに「この口か!」と叫びながら往復ビンタしなければならない。 「ずっと溜め込んでたからな……勢い余って君の寝床に忍ぼうとしたこともあるらしい」  寝床。  さらりと告げられ、どきりとした。かなり重大なことを聞かされたような気がした。 「あの、アルディ……なんの話?」  跳ねた鼓動はおさまらず、どすんどすん駆け足している。違う。どくんどくんだ。若干息が苦しい。  この男の話を、オレはこのまま聞いていてもいいんだろうか……自分から訊ねたくせに、そんな疑問が脳裏をよぎった。  呑気そうにてくてく歩く狩人は、やっぱりてくてく歩きながら小首を傾げる。 「なにって、アサドだろ? 念願叶って同棲開始だ。毎夜励んだってまだ足りないだろうな」 「毎夜、励……え? ど、ど……?」  どういう意味だ? 「毎晩アサドに抱かれてるんだろ?」  あの男の相手をして、それで他にも……なんてさすがに身体が辛かろう。だから助けたのだ、と。  さらりと告げられたアルディの言葉はすんなり頭に入ってこなかった。  ナメクジの速度で情報が、鼓膜から、脳味噌へ。その間数十秒。  その数十秒の後、ぱぁんと理性が爆発した。 「んなッ、な、そんなわけないだろ……ッ! アサドはそういうんじゃない!」  よくもまああのお人好し捕まえてそんなことがいえたものだ。これだからヴィラージュは!  驚くのを通り越し、腹が立った。  仲がいい「設定」のアルディですらアサドをそんな風にいうことに我慢がならなかった。 「お、おろせ……ッ、ばか! アサドがそんな奴のわけないだろ!」 「あ、おい! あばれんなよ!」 「いたッ!」  どすん、と尻が地面に落ちた。いわんこっちゃない、とアルディが呆れた顔をしている。  けれども再び抱き上げてくれと頼む気はない。  それどころか指一本触られたくない。這ってでもひとりで帰る。  そんな決意のもと、ぎりりと男を睨めつける。 「アサドをお前らと一緒にすんなッ」  ヴィラージュで唯一、あいつは唯一の「シア」の味方だ。  絡みスチルが存在しない。誰もがシアを襲う中、あいつだけは襲わない。  シアを「穴」として扱わない。  途切れ途切れ、主張する。腹が立ちすぎて泣きそうだった。  ふうふう鼻息も荒く睨みつける、その先でアルディは困惑した表情を浮かべている。  これ以上「シア」の神経を逆撫でするつもりはないが、と、顔がそういっていた。 「アサドが君に欲情しないわけがないだろ……まさか、まだ? 一度も?」 「あるわけないだろ! お前こそアサドのダチにしちゃ随分だな。あいつのこと全然わかってねえじゃねえか」  あ、なんか普通に喋れてるな。シアになって以降、どうもなよなよとした言葉を口にしがちだったのに。  ふとそんなことを考えながらも言葉は止まらない。  若干挑発めいたことをいった自覚はある。自覚はあったが、目の前でアルディの表情が変わると本能が怯んだ。 「随分? 随分ってどういう意味かな?」  冷めた視線で狩人が近づいてくる。  怯んで一歩下がるも、向こうは止まらない。アサドの上をいく長身が眼前に迫る。  指先で顎を掬われた。キスの距離まで男の顔が迫ってくる。 「わかっていないのは君の方だ。今までなにもなかったというなら、それは単に奴が我慢していたってだけのことだ」 「……違う」 「違わない。そんなに疑うなら、試しにすこし煽ってみるといい。すぐに挑発に乗って、きっとあいつは朝まで君を抱くぞ」  低い声で囁かれると、なにも返すことができなかった。

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