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第8話 彪

「あきら、さん?」 聞いたことのあるような声色に寒気を覚えて、俺はその方向を振り向いた。でも尻尾は出てない。……なのに何だろう、この嫌な予感は。 後輩である彼は俺の目を真っ直ぐ見詰めて、信じられないモノを見たような顔をしていた。 「その、目……っ、あなたは、まさ、か……!」 目? 瞳? そう考えた瞬間、彼はもう俺に背を向けていた。手を伸ばして引き留めようとした。だけど視界が揺れて……頭痛が俺を襲った。 こめかみを押さえて一瞬唸って、その後彼の姿を探したけれど……駄目だ、何処に行ってしまったんだ? ぞわり、と寒気が嫌悪感を引き連れて背骨を駆け上ってきた。嫌な予感。僅かに指が震える。指が震えてしまって堪らない。恐い……? 何だろう、何なのだろうこの感情は。 芹人には感じた事の無い、この本能から出てくるような拒否反応は……? 気付いたら業務時間は終わっていて、でも呼び出されなかったせいで余計に不安は煽られていた。 バクバクいう心臓を抱えて、それでパソコンの電源を落とす。……その瞬間、俺のケータイが音を立てて震え出した。びくりと体を揺らして、何事だと思って震える手で画面を開ける。 ……芹人からの、メールだった。 【急用が出来た。今日は家にさっさと帰ってくれ。】 「きゅう、よう?」 侮蔑の内容じゃないことに一瞬安堵して、その後芹人のメールに疑問と……嫌な予感を感じ取った。 切羽詰まったような、芹人らしくない文面に……妙に堅苦しい句点。極め付けは“さっさと帰ってくれ”の一文。何かが起こる。俺の勘がそう告げた。 でも、でも俺は脅される側。……脅す側である芹人の言葉には逆らえないんだ。 自分を納得させて、席を立つ。荷物をさっさと纏めて足早に会社から出た。 「……何なんだよ、意味解んないだろ」

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