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第9話 芹人
後輩たるそいつを壁にまで追い詰めて、俺は貼り付けた笑みで口を開いた。
「なあ、それがどうしたって言うんだ?」
ぶるぶる震えるそいつの顔が滑稽で、それでいて何処までも憎らしかった。踏み躙ってグチャグチャにしてやりたい衝動に駆られる。
彪が獣人だからどうしたんだ、と言って俺は代わりにそいつの頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。
「彪が獣人で、それがどうしたんだよ? 彼奴は何かお前に迷惑を掛けたのか? それとも会社に迷惑を掛けたのか? いやいや逆だよなあ。今日は特にだ。ほれ、お前のミスを彪が修正したんじゃ無かったか?」
なのにお前は恩を仇で返すような真似をしたいのか、と俺は彪にも聞かせたことの無い……脅す用のドスの利いた声でそう尋ねた。
後輩たるそいつは、俺が部長と話してる時に、いきなり入って来やがった。
部長が嫌な顔をしたから部屋の外に連れ出して、如何したんだと尋ねて、それで一瞬にして目の前が暗くなった。唇を噛んでそいつに嘘八百を吹き込んで……俺はそれで、退社後に話そうという約束を取り付けた。
『こーいう手の話はデリケートだしさ、もしただのカラコンだったらあれだろ?』
んで、彪に断りのメール送ってそいつを裏路地に引き摺り込んで今に至る。
そいつはぶるぶる震えたまんま、やっとこさっとこ口を開いた。なんでそこまでして畜生共を庇うんですか、と……あなたは畜主たる種族なのに何故、と。
あーあーあーあー!
これだから!
差別主義は!
嫌いなんだよ!
「もう一回言ってみろよ……誰が、畜生だって?」
一周回って無表情になっちまった。そいつの目を見据えて、睨んで、俺はそして鼻で笑う。
「思い出しても見ろよ! 彪は畜生なのか?! 人間より、お前や俺より劣ってるってのか!? んなわけ無いよなあ、あいつだって……獣人だって人間と同じなんだよ!」
嬉しい時は喜ぶし、嫌な事には嫌悪感を露わにしてくる。ヤってるときの顔は蕩けてるし、声だって男らしい低い、綺麗な声だ。
それなのに畜生だあ?
ふざけんのも大概にしろ!
「ほら、もう一度言って見ろよ」
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