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5月2─2
side春兎
「えっお前王子と一緒に昼飯食ったの?いーなぁ」
キラキラした顔
「羨ましいでしょ」
中学の時から培った演技力で、君を欺く
「明日は俺も誘えよな」
「ダメだよ寛人は」
「えー?なんでだよケチ」
好きな人が、キラキラした顔を誰かに向けるなんて嫌に決まってるじゃないか
「あんまり大勢なのが好きじゃないっぽいよ彼」
「あーそっか...確かにそんな雰囲気あるよね」
本当にそうかは、わかんないけど
でも今日、話してみて少しだけ分かったことはある
彼は僕と似てる
あの人...絢斗先輩を見る目
あれは僕と一緒だ
愛おしい人を見る目
ガララ
「誰だ?」
「先輩!僕が、招待したんだ。」
もうちょっと話してみたくて、帰り一緒に帰りませんか?って聞いたら快くOKしてくれたんだよね
水野先輩は、用事があるみたいだったけど
「あっ春兎くん」
前髪で顔は見えないけど
何となく表情は、分かるな
おどおどしたうさぎみたいな雰囲気が
僕の顔を見てパアッと明るくなって
こっちにちょこちょこ駆け寄ってくる
「ぶはっ」
「えっ何?」
「いや、可愛いなって」
あっ髪の毛サラサラ
「...へぁっ!?」
へぁって...本当に可愛い人だな
「なんか...仲良くないか?」
「今日一緒にお昼食べたからね、それに彼は僕の恩人だから」
「はぁ?」
「...あっもしかして彼が?っ」
人差し指を彼の唇に押し当てて、それ以上は言っちゃダメというように少しだけ微笑んだ。
先輩は、ハッとした顔をしてコクコク頷いた
「隅の方に行ってて、先生には僕から言っとくから」
「うん、ありがとう」
てこてこかけてくの可愛いな
「なーんか、イケナイ雰囲気?」
「何言ってんだよ馬鹿」
赤い糸が繋いでくれた縁だから
僕の気持ちを認めてくれた人だから
大切にしたいんだ
「ほら、練習始めるぞ」
「はーい」
中学1年の春
何の気なしに覗いた演劇部に彼はいた。
今ほど演技は上手くなかったけど
人を引きつける力があった
僕は、すぐに演劇部に入部を決めて
彼に近づいた
始めての部活
始めてのミーティング
やることがいっぱいで
いっぱいいっぱいになっていた僕の肩を緩めてくれた。
あれっ...おかしいな昼間はあったのに
「シャー芯ないの?」
「へっ?...あっはい!なんか落としちゃったみたいで」
うそ...話しかけられた
「じゃあ俺のやるよ、あと数本しか入ってないけど」
「えっいいんですか?」
「おう、ほら」
「ありがとうございます!」
「おっ?なんだお前ら仲良いな、よしっじゃあ次の主演お前らな」
「「えぇ!?」」
舞台の名前は「運命の赤い糸」シナリオは、自分に繋がっている長い長い運命の赤い糸がある日突然見えるようになって、誰と繋がっているのか気になった主人公が、赤い糸を手繰りながら色々な人と巡り会っていくという話だった
僕は、主人公の相手役
主人公は、寛人
舞台は、大成功
それからよく組まされるようになって
気がつけばいつも一緒にいるくらい仲良くなっていた
そんな折
ある日突然、寛人に彼女が出来たと聞かされた。
心が抉られるような感覚だった
と同時に、彼に本気で恋をしていることに気が付かされた
結局始めてだったこともあり、彼女とは1週間と持たず別れていたけれど
自分の中にあるこの感情が許せなかった
だから気づかれない程度に、距離を置いた
結局バレて避けてるんじゃないかって問い詰められたりもしたけど、結局諦めたのか何も言ってこなくなり
それからはたまに一緒に帰るけれど、僕が今日は先帰るといえば寛人は分かったと言って一緒に帰らなくなった。
「凄かったよ春兎くん!やっぱり演技上手だね」
「ありがとうございます絢斗先輩」
「先輩、あんま褒めるとこいつ調子乗るからダメっすよ」
それは高校生になった今も同じで、今日は一緒に帰ってるけど
結局今後も僕は、この気持ちを寛人に伝える事は一生ないと思う
そう思っていた。
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